五輪開催の世論調査は新聞によってなぜ大差

質問の選択肢を意図的に調整

国際オリンピック委員会(IOC)、日本政府・組織委員会はコロナ危機に対する非常事態宣言の有無に関わりなく、東京五輪を強行開催する構えです。後戻りできないところに自らを追い込んでいく作戦です。

seb_ra/iStock

朝日新聞が社説で、開催中止求める一方、広告収入などの経営的な見返りが大きいスポンサー(協賛社)契約は破棄しないと表明しました。腸ねん転を起こしそうな経営・編集方針の不一致です。

他の新聞社はどうするかと、思っていましたら、読売新聞の記事(5/31)を見て「おやっ」です。都議選に関連した世論調査の結果、「五輪開催49%、中止48%。開催と中止が拮抗」になったそうです。

僅差とはいえ、対象者が都民だけとはいえ、世論調査で開催が中止を上回ったのはコロナ危機下では初でしょう。菅首相は喜んだでしょう。

記事を読むと、選択肢は「観客数を制限して開催、無観客で開催、中止」の3つしかない。普通は「中止、延期、開催」の3択を用意し、「開催」と答えた人にはさらに「観客数の制限、無観客」のどっちかを聞く。

「延期してでも開催したほうが中止よりはいい」と考えていた人は、選択項目に「延期」がなければ、恐らく「観客数制限か無観客での開催」に流れた。それで開催が中止を上回ったのでしょうか。

同じ日に日経の世論調査結果が載っていました。「中止40%、延期22%、観客数を制限し開催17%、無観客で開催16%」です。中止と延期を合わせた夏の開催反対は62%になります。

朝日の調査では「中止43%、延期40%、記載14%」(5/17)で、開催反対が83%と、極めて高い。毎日は「中止40%、延期23%」(5/22)です。どちらも「延期」を選択肢に入れています。普通はこれです。

読売は前回の全国調査(5/10)でも「観客数を制限して開催16%、無観客で開催23%、中止59%」の3択で、「延期」の項目は設けていません。

もっと前の調査(3/8)では「組織委の橋本会長が観客を入れた開催を目指しています」と前置きした質問です。これに対する回答は「賛成45%、反対48%」。開催を前提にした質問はフェアとはいえません。

よく似ているのがNHKです。「五輪はどのような形で開催すべきでしょうか」の問いに「観客数の制限19%、無観客23%、中止49%」(5/12)です。「延期」という選択肢がないため、回答者は困ったと思います。

NHKの調査では、今年の1月までは「延期」が含まれていたのに、2月から突然、それが消えています。何らかの意図を感じます。

「延期」が選択肢を削除していることについて、、読売もNHKも説明がありません。IOCは安倍前首相の要請で一度延期したので、「これ以上の延期はしない」としています。だから削除したという理屈ですか。

では「中止」はどうでしょうか。IOCは先月来、トップクラスが「中止はありえない」と言い続けています。「延期」を削除するなら、「中止」も削除しないと辻褄が合わなくなる。その説明を聞きたいのです。

海外もコロナ禍での五輪開催に大きな関心を寄せ、世論調査のデータに注目しています。報道機関の常套用語の「丁寧な説明が求められている」は、報道機関にも求められているはずです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年6月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。