全米No.1
英国におけるシングル”She Loves You”とアルバム”With The Beatles”の大ヒットその人気を不動にしたビートルズが1963年11月29日にリリースしたのが、シングル『I Want to Hold Your Hand / This Boy』です。
■I Want to Hold Your Hand [The Beatles 公式]
楽しい手拍子もある明るい曲調でスウィートなブリッジもあるエレクトリック・ビートのこの曲は、ジョンとポールの歌唱力とコーラスワーク、ジョージの最高にキャッチ—なギター、ポールの歌うベース、リンゴの曲を活かすメリハリの効いたドラミングというビートルズのプロの所業がパッキングされた充実のレノン=マッカートニー作品です。
■This Boy [The Beatles 公式]
B面は、米国のドゥワップ・スタイルのスウィートな曲です。ジョン・ポール・ジョージが3部構成のハーモニーで歌い上げます。ビート・ミュージックのB面に対称的なこの曲を配することで、相乗効果を狙ったものと推察します。
英国では熱狂的なビートルマニアに支持されたビートルズでしたが、米国では英国で販売新記録を作った”She Loves You”ですら全く売れませんでした。しかし、ヨーロッパでの評判が伝わると、大手レコード会社のキャピトルは『I Want to Hold Your Hand / I Saw Her Standing There』のシングル・リリースを決定しました。
1963年12月26日発売のこのシングルは、1964年1月18日に全米No.1となりました。パリ公演の夜に全米No.1を知ったビートルズは喜び祝杯を挙げました。英国のミュージシャンが米国でまったく売れなかった時代、全米No.1を出して米国進出するという願いが遂に叶ったのです。1964年1月20日には、米国メジャーレーベル発売としての伝説のファーストアルバム『Meet The Beatles』が発売されました。これはアルバム『With The Beatles』の多くの曲に”I Want To Hold Your Hand”と”I Saw Her Standing There”を加えたものであり、1964年2月15日にアルバムチャートで全米No.1になります。
1964年2月7日、ニューヨークのケネディ空港では、クレージーな大観衆がビートルズを大歓迎しました。そして、ビートルズが出演した1964年2月9日(日)放映のテレビ『エド・サリヴァン・ショー』は米国テレビ史上最高視聴率である72パーセントを記録しました。思えば、1963年2月11日にファースト・アルバムを1日で録音した[ONE-DAY Session]からちょうど1年、ビートルズ自身も予想してもいない展開であったと考えられます。
番組で最初に歌った曲は”All My Loving”、番組出演は3週にわたり、”She Loves You”,”I Saw Her Standing There”,”Twist And Shout”などを交えて、毎回最後は”I Want to Hold Your Hand”で締めました。
[The Beatles 公式/エド・サリヴァン・ショー出演のビートルズ]
本当に感心するのは、エンタメの国である米国のテレビ撮影スタッフの素晴らしいカット割りです。英国のビートルズのヴィデオが成り行きで撮影しているのに対し、米国のテレビは、カットを計算しつくして、ジョージのリフやリンゴのフィルインなどの見せ所を逃しません。[エド・サリヴァン presents ザ・ビートルズ]
ワシントンDC、カーネギーホール、マイアミでコンサートを行ったビートルズは、2月22日に国民的英雄として帰国、ヒースローではビートルマニアの大歓迎を受けました。特筆すべきは、このとき、ジョージがリッケンバッカーの12弦ギターを米国から持って帰ったことです。
ブリテッィシュ・インヴェイジョン
1964年3月、ドイツ語版の”I Want To Hold Your Hand”と”She Loves You”を収録したシングル『Komm, gib mir deine Hand / Sie liebt dich』[The Beatles 公式A] [B]を発売(メンバーはあまり乗り気ではなかったようですが)した後、ビートルズはシングル『Can’t Buy Me Love / You Can’t Do That』をリリースします。
■Can’t Buy Me Love [The Beatles 公式]
ポールが創造したクールでスリリングなブルースです。イントロなしでいきなり始まる”Can’t”がちょうどフィルインのスタカートのリズムとなって、見事にカウントの代わりをしています。たたみかけるようにビートを効かせたポールの歌唱と制御されたシャウト、そしてジョージのクールなギターリフとチョイ悪にベンディングするファンキーなギターソロは、ロックの本格的な幕開けを感じます。リンゴの歌うようなドラミングも素晴らしいです。
■You Can’t Do That [The Beatles 公式]
ジョンの野性味溢れるヴォーカルが爆発したグルーヴィーなブルースです。ジョージの12弦ギターのキラキラしたリフとブレイク時のリンゴのスネア、ポールとジョージのバッキング・コーラス、どれをとってもヤバいです。間奏ではジョンがギター・ソロを披露しています。
1964年3月16日に米国で発売(英国は1964年3月20日)されたこのシングルは1964年4月4日に全米No.1を獲得しましたが、この時なんとビートルズのシングルが全米トップ5を独占するという現在も破られていない不滅の大記録を作りました。
1. Can’t Buy Me Love
2. Twist And Shout
3. She Loves You
4. I Want To Hold Your Hand
5. Please Please Me
このビートルズの大活躍を契機にして、英国のエレクトリック・ビート・ミュージックがやや緊張感を失っていた米国の音楽界を席巻し、さらには他の英国文化まで米国を侵攻するようになりました。この英国ブームこそ【ブリテッィシュ・インヴェイジョン British invasion】と呼ばれるものです。もちろん、このブームは米国に止まらず、世界中に拡がっていきます。
3rd アルバム『A Hard Day’s Night』
ビートルズがビートルズをコミカルに演じた初の主演映画『A hard day’s night』のサントラ盤です。映画でのあまりのドタバタぶりで、ビートルズはイギリス版マルクス兄弟と呼ばれました(笑)。ハードスケジュールをこなした夜に”It’s been a hard day…’s night”(ハードな1日…の夜だ)とリンゴが呟いた奇妙な言葉がそのまま映画と主題歌のタイトルになってしまいました。日本版のタイトルは、あの『シベリア超特急』の水野晴郎先生(笑)がつけた『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』です。これは洋画史上最悪の邦訳タイトルの一つと言われています(笑)。
その一方で、アルバムは本当に素晴らしいです。収録曲は全曲レノン&マッカートニー作品であり、実際にはポールが作曲した”And I Love Her”,”Can’t Buy Me Love”,”Things We Said Today”の3曲を除けば、すべてジョンの作品であり、その才能が爆発しています。多彩なブルース曲が多く収録されている一方で、美しいバラッドが登場するアルバムです。
■A hard day’s night
ジョージが導入した12弦ギターを中心に様々な音が詰まった「ジャーン」のイントロに続いて、ジョンがブラック・ミュージックのブルーな魂を注ぎ込んだ快調なテンポのブルースが展開されます。そしてブリッジの”When I’m home”部分では、ポールがポールの真骨頂ともいえるポップ・ロックを爆発させます。ジョージの8小節のギターソロとエンディングのアルペジオも鉄板ですね。
■I Should Have Known Better
ジョンの抜群にアーシーなハーモニカとアイドル感満点の甘い歌声がたまらないシンプルで快調な曲です。アイドルグループとしてのビートルズの一面を強く感じさせてくれます。テーマをオーソドックに奏でるジョージの12弦ギターのソロは若干退屈ですが、ビートルマニアはさぞ熱狂したことでしょう(笑)
■If I Fell
転調を繰り返す奇抜なコード進行のバースに続くリンゴのフィルインで起動するビートルズのビートルズたる所以ともいえる美しく絡み合うジョンとポールのコーラスがしっとりと聴ける究極のバラッドです。リンゴの8ビートとジョージのアルペジオが優しく曲を支えます。”Don’t hurt my pride like her”の”her”の7thコードと”was in vein”のフレーズが涙が出るくらいたまらなく好きです。素晴らしい!!!
■I’m Happy Just to Dance with You
このアルバムでは唯一ジョージがリード・ヴォーカルを務めています。このクセのないヴォーカルはビートルズの中では貴重な存在です。そしてこの曲の聴きどころの一つは、ジョンの忙しいリズムギターです(笑)。リンゴのドラムスと絶妙に絡まって光ってます。
■And I Love Her
作曲家として、この時期に次々と新しいトライアルを始めて進化を続けているポールが、熱い愛の歌詞を逆に淡々と歌い上げる幻想的なマイナー調のバラッドです。リンゴのボサノヴァ・ビートとジョージのアルペジオがエキゾティックです。アコースティックな詩的アプローチはこの後のビートルズの音楽性を大きく広げました。
■Tell Me Why
ビートルズにしては珍しいご機嫌な4ビートです。曲を支えるポールのウォーキング・ベースとリンゴのスタカートにジョージの変化に富んだギターが絡んでゴージャスな雰囲気を出しています。ハーモニーに参加しているのはポールではなくこの曲の特性に合ったジョージです。途中のお茶目なファルセットも印象的です(笑)
■Can’t Buy Me Love
(前出)
■Any Time at All
ポールの制御された歌唱スタイルとは対象的なジョンの制御しない野性的な歌唱スタイルはジョンの最大の魅力でもあります。この曲では、そんなジョンの真骨頂が聴けるのと、ジョンの歌唱につられて野性的に続いていくポールの歌唱も愉しめます。”all you’ve gotta do is call”という歌詞のくだりで、ためらいもなく突き進んでいくジョンの歌唱は本当にロックしています。
■I’ll Cry Instead
ミドル8つきのカントリー風ブルースです。ジョンは起承転結がある歌詞のストーリーテラーとなっています。それにしても、演奏時間は僅か1分48秒。特別なインプロヴィゼーションもないので適正なのかなと思います(笑)
■Things We Said Today
アニヴァーサリー・ソングのような美しさと強さを感じるポールが作曲した「愛の誓い」の曲です。この先に「The Long And Winding Road」があることをしっかりと感じさせてくれるマイナー調の佳曲です。ポールが芸術家として覚醒しているのがよくわかります。
■When I Get Home
ストレイトにソウルフルなブラック・ミュージックです。ジョンの野性ヴォイスがジョージのグルーヴ感満点のファンクなギター・リフとリンゴの気の利いたドラミングをバックに炸裂し、”Whoa-I”で発散します。
■You Can’t Do That
(前出)
■I’ll Be Back
アコギの情熱的なストロークを前面に出したジョンのこの曲も、ポールの”Things We Said Today”と並ぶマイナー調の佳曲です。まさに青春のほろ苦い1ページのような情感溢れるフォークソングです。ジョージのクラシックギターの格調高いフレーズも心に浸透します。
この後、ビートルズは米国を侵略し続け、世界的な大スターの座を確立します。
(続く)
過去記事
[01 Please Please Me]
[02 With the Beatles]
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。