オリンピックに向けてコロナ感染短期予報

仁井田 浩二

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載35)

オリンピック開催まで50日を切り、このコロナ禍でのオリンピック開催の是非について議論が盛んになってきていますが、本稿のシミュレーションによれば、充分にオリンピックは開催できます。

Sergio Yoneda/iStock

ワクチン効果の新たな顕在化

ワクチンの効果は、新規陽性者の逐次的な減少として現れるのではなく、ピークアウトのように、突然の(非線形的な)変化として現れるという結論でした(連載33)。

イスラエル、イギリスは、当初からワクチンの接種率が高く、その効果も劇的に新規陽性者の収束に寄与したと考えられています。ただし、両国ともワクチンの接種率が高まってきて時期は、ピークアウト後の下降フェーズであったため、ワクチンの効果で、この下降フェーズがどの位加速されたかを定量的に評価することは困難です。

一方、ドイツとスウェーデンの新規陽性者の図(エピカーブ)に最近シミュレーションの予測より急激な減少の兆候が見られました。詳しく調べるとアメリカにもその兆候が見られます。以下に、ドイツ(図1)、スウェーデン(図2)、アメリカ(図3)を示します。図は対数表示で、赤線が陽性者数のデータ、青線が死亡者数のデータ、黒線が計算の予測値です。5月以降に橙色の破線で示しているのは、前回(連載34)の予測線です。

これまでの解析で、下降フェーズで収束が緩むことはあっても、収束が加速されることはなかったので、この加速は明らかにワクチンの効果の表れだと思われます。計算でこの変化を起因した日付とその時の接種率は、ドイツが5月2日(接種率28.2%)、スウェーデンが5月1日(接種率27.2%)、アメリカが5月12日(接種率46%)です。アメリカは常に他国と比較して高い接種率で同様の変化が現れていることを考慮すると、概ね接種率が10%を超えた辺りからピークアウトし、更に30%で収束が加速されると考えられます。イスラエル、イギリスの変化についても大体妥当な数字です。

そこで、スペイン、フランス、ベルギーについては、まだ兆候ははっきり見えていませんが、これらの値を参考にワクチンによる収束加速を予測してみました。

スペイン(図4)、フランス(図5)、ベルギー(図6)です。5月以降の橙色の破線で示しているのが、前回(連載34)の予測線です。計算でこの変化を起因した日付とその時の接種率は、フランスが5月17日(接種率30.8%)、ベルギーが5月23日(接種率37.8%)、スペインが6月1日(接種率39.4%)です。

ワクチン接種下での変異株

上記6カ国では、接種率10%以上でピークアウト(連載33)、そして30%以上で収束の加速が見られ、これらワクチンの効果は希望を抱かせるものです。

また、イスラエルは、ワクチン接種の一番進んだ国ですが、現在まで下降一直線で、6月6日現在で、新規陽性者5人、死亡者ゼロという素晴らしい結果です。

一方、同じワクチン優等生のイギリスでは、5月の初旬に底を打ってから、徐々に上昇し、現在明確なピークを形作る所です。インド株と言われていますが、ワクチン接種下での変異株の影響が懸念される事象です。

図7の予測線では数日中にピークアウトするようにしていますが、どこまで上昇するかは今のところ分かりません。ただ、図7の左側の線形の図で示されているように、今回の波は穏やかで、1月のピークに比べると小波程度だろう予想されます。感染力の強いインド株の急上昇がワクチン接種による集団免疫効果でだいぶ抑制されているように見えます。

英国政府は、1回目の接種の徹底と、2回目の接種を急ぐことを要請しています。現在の接種率は、1回目が58.9%、2回接種が40.0%です。今のところ解析している国で、ワクチン効果が既に見えた国で、新たな変異株の感染拡大が見られたのは、イギリスだけです。上の欧米6カ国との違いはワクチンの種類で、イギリスではアストラゼネカが主体、他はファイザー製が主に接種されています。この差はあるかもしれません。

世界12カ国のコロナ情勢

図8に、最近の連載で示している、各国の新規陽性者を3月8日の日本の陽性者に規格化した陽性者数の変化の図を更新して示します。変更点は、今回示した欧米6カ国のワクチンによる収束加速と、イギリスの変異株によるピークです。

イスラエルは、新規陽性者が一日100人を切ったところから、収束の傾きが緩やかになりました。予測では、日本も含め、他の国も収束末期の傾きはイスラエルを先行事例として踏襲しています。

オリンピック開催時の日本の情勢

日本の予測です。図9の上部が実効再生産数Rt、下部が新規陽性者の昨年3月からの変化です。青がデータ、赤が計算の予測線です。図10は、新規陽性者と死亡者の変化を対数表示したものです。赤が新規陽性者のデータ、青が死亡者のデータ、黒が計算の予測値です。

図中に緊急事態宣言解除の6月20日とオリンピック開催直前の7月20日の線を入れています。予測は、6月20日までは現在の急降下が続き、それ以後は少し収束が緩やかになり7月20日を迎えるというものです。

Rtが6月20日以降一旦上昇していますが、これは図10で示されているように、収束の傾きが緩やかになったためで、感染が拡大し始めたものではありません。Rtについては、間違った解釈がなされることが多々ありますので注意が必要です。

現在、日本のワクチン接種率は、1回目で9.2%、2回目で3.1%です。従って、5月初めのピークアウトも現在の急激な下降も、まだワクチンの効果とは言えませんが、日本は今、幸運な時期にあり、今後ワクチン接種率を極力上げれば、イスラエルのように新規陽性者をゼロ近くまで減らすことができます。イギリスの変異株の動向は今後も注視する必要がありますが、新たな変異株に対する免疫能力は、十分上がることが期待されます。

この予測線の、6月2日の厚労省のデータとのベンチマーク(表1)、6月20日と7月20日の陽性者と死亡者の累計数(表2)、日毎数(表3)の予測値を示します。6月20日で日毎新規陽性者が1000人(死亡者37人)を切り、7月20日で300人(死亡者10人)です。

本稿のシミュレーションによれば、充分にオリンピックは開催できます。この数字を見れば、充分な配慮のもとにオリンピックを開催して現状の閉塞感を払拭することは可能です。