米国で最低1回のワクチン接種率が6月7日時点で52.2%と半数を超え、経済正常化が進むなか、当然のように持ち上がる話題は「オフィスの正常化」です。
ワクチン接種率の上昇だけでなく、米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドライン変更が大きな引き金となりました。5月18日、ワクチン接種完了者に対し、マスク着用の義務化を解除しましたよね。
NY州などのほか、ウォルマートやコストコ、スターバックスなどでもCDCの指針変更を受け入れたとあって、会社の従業員を呼び戻す必要性を感じる雇用主が増えてもおかしくありません。5月16日付けのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は「従業員を前倒しでオフィスに戻す案を検討中(Companies Ponder Speeding Up Plans to Bring Workers Back to Offices)」と題した記事をリリースし、ワクチン接種の義務化と人手不足の狭間で悩む米企業の実態を伝えていました。3月8日付けのロイターはもっと率直に「在宅勤務、昇進に影響の可能性 多様性確保に落とし穴」と銘打ち、週当たりの在宅勤務日数が長い従業員ほど昇進の機会を失いかねないと警告していたものです。
それでは、従業員はどんな気持ちなのでしょう?ふたを開けてみると、真っ二つに分かれた世論調査結果が確認できます。
Eden Workplaceが2月9~17日に18歳以上のフルタイム+パートタイムの米国人労働者1,000人に調査したところ、なんと85%が「出社を望む」と回答していたのです。その理由の1位は「同僚との交流」(52%)で、続いて「仕事上のインフラにアクセスできる」、「自宅から離れられる」がそれぞれ44%となりました。
ところが、人材派遣大手ロバート・ハーフが3月9~16日に在宅勤務中の米国人1,000人を対象に実施した世論調査では、もし会社が完全フルタイム出社へ戻すよう命じたならば、34%即ち3人1人が「転職する」と回答していたというではありませんか。また、「在宅勤務と出社のハイブリッドを好む」との割合は49%だったのです。
完全フルタイム出社に慎重な回答は、経済の正常化が進んで現実味を帯びた結果、在宅勤務を望む声が高まったのか。あるいは、ロイターが報じたように出世欲の違いなのか。まあ、政治的な考え方や既往症などの事情から接種を望まない米国人もいらっしゃるので、誰もが出社したいというわけでもないのでしょう。
金融業界では従業員をオフィスに戻す計画が進められ、JPモルガンでは米国の全従業員に交代制でオフィスへ戻す方針です。一方、ワクチン接種を従業員に義務化していないセールスフォースはワクチン接種完了済みの従業員に出社を認める一方、従業員の裁量に任せるとしています。
業態や扱うデータなどが違えば、出社も変わるということでしょう。ただ、せっかく郊外へ引っ越しした米国人にとっては、喜ばしいニュースとは言い難く、住宅市場が減速しつつあるのは、米金利の上昇や価格高騰以外に完全フルタイム移行への懸念が現れたのかも?
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年6月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。