女性議員のキャリア形成②:ルック台湾

衛藤 幹子

1981年、マレーシアの当時の首相マハティールが、国家の発展は欧米先進国ではなく、日本、韓国の東アジアを手本にすべきだとして「ルックイースト」なる政策を提唱した。欧米礼賛著しい日本にとって、肩透かしを喰ったような、しかし自尊心をくすぐるキャッチフレーズであったと思う。

なぜ、こんな40年も昔のことを持ち出すのか。先日台湾の研究者から台湾立法院の女性議員比率が42%だという話を聞き、女性の政界進出について日本が学べきは、北欧やフランスなど遥かヨーロッパではなく、すぐそばの台湾ではないかと感じ入ったからである。

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女性の地位に関する国際比較のデータに台湾が登場することはあまりない。だが、42%という数値、列国議会連盟(IPU)が公表している世界193ヵ国の女性国会議員比率のランキングに当てはめてみると、 ベルギー、スイスと肩を並べて20位に相当する。アジアではトップである。

しかも、台湾は、アフリカやアジア、ラテンアメリカ諸国によくみられるような、女性議員比率だけは高いが、政治は腐敗し、民主主義も未だ発展途上という矛盾がない。というよりも、極めて成熟した民主主義社会が実現されているのである。4月の投稿で紹介した民主主義指数(DI)をもう一度みてみよう。DIは、政党と選挙、統治機構、政治参加、民主的政治文化、市民的自由を指標に、165カ国と2地域(台湾、香港)の民主主義の成熟度を測定し、0〜1の間の数値で評価する。1に近いほど良い(The Economist; Intelligence Unit)。台湾のスコアは8.94で、堂々の11位、これもアジアでトップである。

台湾には、「保障名額」と呼ばれる女性の議席割り当て制度があった。1946年制定の憲法は、国政から地方まですべての議会で最低でもその議席の10%程度を女性に割当てることを定めた。1998年、比率は25%に引き上げられた。ところが、2005年に選挙制度が中選挙区制から小選挙区比例代表制に変更され、113議席のうち、小選挙区が73議席、先住民の中選挙区制6議席、残り34が比例代表による選出となった。この改正にともない、旧来の女性議席枠は廃止され、代わって34の比例代表部分に「女性が半数を下回ってはならない」という所謂「パリテ」が設けられた(IDEA)。

つまり、新制度では、女性議員比率の最低ラインが15%と定められたのである。このような枠をはめると、女性議員比率がその枠内に留め置かれ、制度が女性議員増加の足枷になることも珍しくない。しかし、改正後初の2008年の総選挙で、女性議員比率は改正前選挙の20.8%から29.2%と9ポイント近く上昇し、その後も増加の勢いは衰えていない。

女性割当て制が台湾の女性議員の増加に貢献したことは確かだ。しかし、その比率は割当ての枠を大きく超えて伸びている。なぜか。台湾の複数の研究者に聞いた話を総合すると、大きく2つの理由があるように思われる。一つは強力な女性運動である。伝統的な組織からフェミニストまで様ざまな女性団体が個々のイデオロギーや利害を超えて連帯し、より多くの女性の擁立を政党に迫る一方、女性候補者を積極的に応援し、当選とその後の政治活動をサポートするという。

言うまでもなく、女性議員が代表するのは女性だけでははない。しかし、女性議員が当選を重ねるうえで、同性の支持を得ることは不可欠だ。女性に嫌われると、大抵落選する。草の根の女性運動は、ちょうど労組や業界団体のような役割を担い、女性票の集票マシーンとして機能する。選挙の足腰の弱い女性候補者にとって強い味方になるだろう。

二つ目が女性議員自身の努力と政治家としての成長である。台湾では、女性議員は総じて真面目で、汚職や収賄など金権政治とは無縁、そして何よりも有権者のために身を粉にして働くという評価を得ており、よって男性よりも再選率が高いという。台湾でも世襲議員はいるが、それでも一般的に立法院議員への階段は市議会から始まる。そのため、将来国政をめざす政治家は、30歳代に地方議会で訓練を積んだのち、国政へと向かうことになる。近年、このように若いうちから地方議員として活躍し、実績が認められて立法院議員になる女性も少なくないらしい。

わけても、私はこの地方議会からスタートのキャリア形成に注目したい。地方議会で、地域住民の声に耳を傾け、それこそ地を這うような地道な活動を熱心に行えば、政治家の基本が身に付くうえ、地盤形成にも役立つ。落下傘降下のセレブやエリート女性と選挙区を知り尽くした女性、どちらが女性の代表として相応しいのか。女性有権者が望むのはいずれなのか。日本の政党には、長期的な視野に立った女性議員育成体制が必要だ。

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