「人流」を規制する緊急事態宣言には意味がない

きょうからまた緊急事態宣言が始まるが、もう誰もその効果は信じていない。しかしBuzzfeedで、国立感染症研究所の感染症疫学センター長、鈴木基氏は「前回の緊急事態宣言の効果はあった」という。それは本当か。

大阪の「反実仮想」は東京には当てはまらない

彼の根拠とする感染研の報告書は、20人のチームが書いたもので、あの西浦博氏も入っている。その図1は大阪府の新規症例数(診断日ベース)で、蔓延防止措置が薄いグレー、緊急事態宣言が濃いグレーである。

これは素直に読むと、4月15日ごろ感染がピークアウトし、蔓防にも宣言にも関係なく単調に下がったようにみえるが、鈴木氏はこのデータをこう読む。

実際には重点措置を講じたところ、なだらかに下がっていきました。さらにその後に宣言を出したことで、より減っていきました。簡単に言えば、「措置は効いたし、宣言はさらによく効いた」と言えます。

どこからそんな結論が出てくるのか。それはこの図の実データの上に描かれた、指数関数の反実仮想によるものだ。何もしなかったら患者は1ヶ月で3倍になったのを、緊急事態宣言で防いだという。

あの「何もしなかったら42万人死ぬ」の論法である。昨年は予言して大失敗したので、今回は後から「仮想」したわけだが、こんな結果論に意味はない。実データを見れば、今回もピークが先で宣言が後なのだから、ピークアウトの原因が緊急事態宣言ではないことは明らかだ。

報告書には「結果は回帰係数を指数変換し、相対リスクとして表記した」と書かれている。これは感染が指数関数で拡大するSIRモデルだから、係数は違っても東京にも当てはまるはずだが、東京では蔓防で感染はやや増え、連休明けにピークがある(図3)。

これは鈴木氏もさすがに「分析はできていません」と認める。つまりSIRモデルは東京で反証されたのだ。SIRモデルは普遍的な理論だから、大阪にも使ってはいけないのだ。

問題は人流ではなく会話

では緊急事態宣言で強調される「人流」は変わったのか。これは鈴木氏も認めるように、大阪でも東京でもほとんど変わっていない(図5)。宣言で人流は減らず、人流を減らしても感染は止まらないのだ。

この点については、感染研の社会行動リスク解析の結果が注目される。これによれば、会食の多い人の感染率は統計的に有意に高く、特に大人数の会合での感染が多い。

このように問題は人流ではなく会話(飛沫感染)であり、特に飲酒をともなう大人数の会食が危険だ。しかしこれはウイルスが空気感染で指数関数的に波及するSIRモデルとは違うので、国民全員を規制する緊急事態宣言には意味がない。

人流の影響は小さいので、テレワークやオンライン授業には意味がない(感染率に有意な差がない)。旅行やイベントの規制も必要ない。オリンピックの影響はほとんどないだろう。

飲食店の規制は有効だが、費用対効果の計算が必要だ。感染研も確認したように、日本は感染症の死者が平年より少ない過少死亡になっているので、これ以上の規制は過剰である。