前回、政府の説明が不十分なため、遺族感情が問題だという話をしました。同じ時期に、同じような趣旨の記事が配信されました。ワクチン接種の翌日の突然死にもかかわらず、担当医が厚労省に報告しようとしないため、遺族がその対応に大きな不満を抱いたという記事でした。
この記事より、経過を簡単にまとめてみます。
71歳の男性が、ワクチン接種の翌日にトイレの前で倒れているところを家族に発見された。すぐに病院に搬送されたが、同日中に死亡が確認された。医師からは、死因は「虚血性心疾患の冠状動脈硬化症」と説明を受けた。医師は「ワクチンと死亡は、100%因果関係がない」と判断し、厚労省には報告しないと遺族に説明した。遺族はこの対応に納得できなかった。報告する事を繰り返し求めた。最終的には報告することになった。
私が一番問題だと考える点は、医師の判断で、報告しないことが有り得るという点です。実は、予防接種法第12条により、副反応の報告は義務化されています。ただし、厚労省は報告の基準を設けています。報告対象は、「医師が予防接種との関連性が高いと認める症状」としています。つまり、医師が関連性がないと判断すれば、報告しなくてよい事になってしまうのです。mRNAを利用した今回のワクチンは、人類が初めて使用するワクチンであり、どのような副反応が生じるのか、正確には誰にもわからないはずです。したがって、個々の医師が副反応かどうかを判断する事は適切ではありません。接種後2週間以内の死亡と入院は、例外なくすべての症例を報告する事を義務化するべきと、私は考えます。
前述の「虚血性心疾患の冠状動脈硬化症」による死亡は、心筋梗塞による死亡とほぼ同じ意味です。心筋梗塞に焦点を当てて、更に考察してみます。死亡報告例一覧より、心筋梗塞の症例を抽出してみました。全部で38例でした。接種後3日以内に死亡したのは19例(50%)、4日~7日後が10例、8日以後が9例でした。3日以内に死亡が集中しています。死亡報告例では、発病日が記述されていません。4日以後の死亡例でも、発病日は3日以内の可能性があります。接種より発病日までの日数で集計すれば、更に集中していたかもしれません。このデータを見るかぎり、厚労省が主張するような偶発的死亡には、とても見えません。
心筋梗塞は、疑い例でも報告されています。疑い例報告例一覧より、抽出してみました。全部で36例でした。接種後3日以内に発病したものが30例(83%)、4日~7日後が3例、8日以後が3例でした。1日以内(接種当日と翌日)では21例(58%)でした。死亡例より更に集中しています。ただし、報告バイアスの問題があるため、このデータより結論を導くことは早計です。何故ならば、接種日より間隔があけばあくほど、担当医が無関係と判断して報告しない確率が高くなるからです。統計処理をするためには、報告の義務化は必須なのです。
心筋梗塞の主たる原因は動脈硬化であり、何らかの誘因(引き金)により発病します。前回、「ワクチンは、死亡の原因とは言えないが、誘因の可能性がある」と説明しました。心筋梗塞の誘因
としましては、精神的・肉体的ストレス、極度の疲労、睡眠不足、うつ状態、急激な温度変化、脱水など多数あります。ワクチンの話ではありませんが、新型コロナ感染症で、心筋梗塞の発病リスクが高まることも報告されています。死亡例は専門家により分析されますが、病理解剖されていても、何が誘因であったのかまでは、多くの場合は判明しません。ワクチンが誘因であった事を完全に否定する事は、悪魔の証明のようなものであり、ほぼ不可能です。「ワクチン接種の因果関係は、個々の症例では証明できない」という視点は非常に大切です。
強い副反応により致死的疾患が誘発された場合、それを副反応とするのかどうかについては議論が分かれるかもしれません。ただし、無関係でないことは確かです。国内での突然死は、年間約9万人、1日だと約247人と推定されています。近い将来に突然死する危険のあった人が、ワクチンにより死期が数日から数週間早まったのだと私は考えています。この場合、死者数は増加していません。一定の期間では、死亡率もあまり上昇しません。したがって、死亡者数や死亡率の比較のみで、関係の有無を判断することには問題があります。報告を義務化した上で、接種から死亡・発病までの日数の分布を分析して判断するべきです。
前回も言いましたが、現時点ではメリットの方が大きいため、ワクチンの中止を提言するつもりは全くありません。ただし、遺族に対する政府の説明には疑問を感じます。補償の問題が絡んできますので、説明の仕方が難しいことは理解できます。はっきりした結論がでるには、まだ紆余曲折があるかもしれません。今後も「接種後の死亡は偶発的なもの」という説明を政府が続けていては、遺族の納得を得るのは難しいのではないかと、私は思います。政府の胆力が試されています。
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鈴村 泰
医学博士、第一種情報処理技術者、元皮膚科専門医、元漢方専門医
1985年名古屋大学医学部卒業。
アトピー性皮膚炎などの漢方薬治療と医療情報処理を得意とした。
現在はセミリタイア。画像アプリ「皮膚病データベース」を公開中。