政府は目先ではなく数十年後の日本を想定した政策立案を

政府の新型コロナ感染対策や東京五輪対応が、これほどまで後手に回ってしまったのはなぜでしょうか?

政府・自治体はもう1年4か月以上も「自粛要請」という形で、新型コロナ感染対策を続けています。そもそも自粛とは、「自ら進んで行動や態度を改めて慎むこと」であり、要請は「必要な事が実現するように(強く)願い出て求めること」ですから、この2つのワードがドッキングすること自体おかしなことです。

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無理に解釈するなら、自粛を要請するということは、上からの権威で「国民一人一人、これまでより外出・外食を控えなさいよ!」と(強く)催促することであり、言い換えれば公的機関が行う罰則を伴わない行政指導とも捉えることができます。ですから、コロナ禍における「自粛要請」とは、実質は「自粛」などではなく、強要に近いものだということになるでしょう。

実は「自粛要請」というやり方は、政府・自治体に次のようなメリットがあります。

  • 「命令」ではなく「要請」なら、損害が生じても公権力が強制・禁止していないため、国家責任の「賠償」には当たらず、国や自治体が行う補償はあくまで道義的責任となる。
  • 国や自治体の「お願い」を聞き入れない者には、一部の市民が自発的に「自粛警察」となり、公的機関に代わって私的制裁を加えてくれるため、政府は手を汚さずに命令・強制に近い効果を上げることができる。

確かに日本には、緊急時に最善策を見極め、それを速やかに実行する仕組みがないため、場当たり的な対応を繰り返している面もあるのですが、本来ならいち早く不測の事態に機能する法の制定・整備を行うべきだったのに、大人しく真面目である国民の自助努力に頼り切り、抜本的な法改正に着手することなく、今日までズルズルと来てしまったのです。

また、具体的な感染対策の決め方にも問題があり、会議が場の雰囲気や主観(思い込み)に支配されがちで、客観的データ・エビデンスに基づかずに決めたのではないか、と思われるケースも見受けられ、以下のような疑問が生じます。

  • 感染源・感染ルートをどこまで正確に把握しているのか?
  • 人流と感染者数との相関関係を客観的に明示できるのか?
  • 飲食店の休業・時短営業で、具体的にどれだけ(何割)感染者は抑えられたのか?
  • 医療ひっ迫という割に、なぜ迅速にコロナ病床数を増やせないのか?

この疑問に答える客観的な検証結果を、公にはほとんど聞いたことがありません。

さらに、PCR検査の偽陰性発生率(約30%)や無症状感染者数の多さなどから、新型コロナウイルス感染者数の実態把握は極めて難しく、感染者数に一喜一憂すること自体得策ではないはずです。

法改正だけでなく、政府のスピード感のなさは国会運営にも当てはまります。

WEB会議やメール送信でやり取りできるようなことまで一同が国会の会議場に集まり、質問はだらだらと長く、政府答弁も予め用意された原稿を読むことがほとんどです。野党の本題とは関係のないスキャンダル追及や失言の揚げ足取りも問題ですが、とにかく国会運営の労働生産性があまりにも低すぎます。これでは不測の事態に即断実行することなど到底できないでしょう。

ですから、今回政府が八方ふさがりの状況に追い込まれた原因は、単純にコロナ禍や個々の感染対策の問題というよりも、国家の政治・行政システムや日本人の気質の問題であると捉えることができます。そして以下に示した日本(人)の持つ負の特質は、そのまま政府にも当てはめることができます。

  1. 慣例・慣習や既存の法規に忠実に従うあまり融通が利かず、不測の事態や大きな変化に対応できない
  2. 失敗を恐れ率先して行動することを嫌い、自分で物事を決められない
  3. 地位権益を守るため、自分が責任を負うような言動を避ける傾向がある
  4. 同族(集団)意識が働き、同調・忖度が生まれやすく、異なる意見表明が難しい
  5. 上記1.~4.から短時間で決断できず、玉虫色の(中途半端な)結論を出すか、問題を先送りする

これに国民の「お役所頼み」の受動的忍耐的姿勢と、マスコミの同一歩調・集団意識を暗に国民に求めるような偏向報道が、政府の独りよがりをアシストしたとも言えます。

ところで国家の安全保障政策は、感染症など不測の事態への対応ばかりではありません。

今後日本国民が安全で豊かな生活を維持するためには、エネルギーや食料の安定供給は最重要課題です。自然・再生エネルギ―へのシフトや農業支援策、人口・福祉・財政政策など、数十年先の日本を見据えた長期的な戦略が必要です。ところが現政府は、目先のトラブルや損得に振り回され、近視眼的な対処療法に明け暮れているように見えます。

このまま前近代的で非効率な国会運営・官僚業務や、政治家・役人の決断力・危機管理力・主体性・行動力のなさが続いていけば、日本は諸外国から相手にされず国益を失い、衰退の一途を辿ってしまう恐れがあります。

コロナ禍で政治システムの不具合があらわになった今こそ、政府は「日本を大改革するチャンス!」と前向きに捉え、国民のために日本国家の理想の姿をリアルにイメージし、今から何を構築すべきか真剣に考えてほしいと思います。


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