五輪含め国家の設計図を書けない日本人

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金融財政もエネルギーも

国家経済の基本は、最近、発表されたばかりの財政金融政策とエネルギー戦略(環境問題を含む)です。数字合わせにすぎないことをすぐに見抜かれる。菅政権はそんな設計図しか書けていません。

そのことを中心のテーマにするつもりでしたら、東京五輪の開閉会式のショーのディレクター、小林賢太郎氏を組織委員会が突如、解任しました。五輪は国家総がかりの国際的イベントです。それを仕切れない日本の惨状がまた露わになりました。

ユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を揶揄した小林氏による動画が拡散した過去があり、ユダヤ系国際人権団体が非難する声明をだしました。ホロコーストは人類が懺悔すべき、歴史上、最大の汚点です。国際的な大問題で、廃刊に追い込まれた雑誌も日本にはあります。

その意識がない人物、その人物を起用した責任者、さらに人選をチェックしていなかった組織委員会の全てに責任があります。五輪がテレビ放映される国際的大運動会という程度の意識しかなかったのか。元お笑い芸人ですので、お笑いの意識でホロコーストを取り上げたとしたら酷い。

日本の首相で組織委員会の会長だった森喜朗氏が、女性蔑視発言で辞任しました。最近では、開会式の楽曲担当の小山田圭吾氏が身障者をいじめた過去を糾弾され、辞任しました。女性蔑視、身障者いじめ、ホロコーストの揶揄と続けば、国際的視野を欠く日本人のレベルの低さを痛感する。

菅首相は米紙(WSJ)とのインタビューで、新型コロナウイルスの感染拡大、非常事態宣言下の五輪について、「五輪は簡単にやめられる。やめることは一番簡単で、楽なことだ」と語り、波紋が広がりました。こんな発言をすれば、国際的にどう受け取られるかの意識がないのです。

五輪を取り巻く環境の、あまりの評判の悪さに本人は居直ったのでしょう。簡単どころか、決断力のないまま、ずるずるしているうちに、ここまで追い込まれてしまったというのが真相でしょう。

開会式のない東京五輪をやりますか。五輪もやめますか。政治家のレベルも、組織委員会のレベルも、もう五輪をやれるような国ではない。菅首相は「早期に中止を決めていればよかった」との思いでしょう。

どうやら東京五輪ばかりでなく、エネルギー基本計画にも、財政金融政策にも、それぞれが抱える問題点には共通するところがあります。

特に第二次安倍政権以降、選挙受けする政治的なスローガンが乱造され、多数の戦略会議が官邸に設けられました。官邸は肥大化し、官主導ではなく政治主導の時代に入ったとされます。

粗製乱造されたスローガンや政策目標が実現不能、賞味期限切れになると、政策効果が検証されないまま、新なスローガンが掲げられました。実権を奪われた官僚群が政権の気に入るスローガンを用意したのです。どんどん安易な国に堕落していったのです。

政府はエネルギーの安定供給を目指す中長期的な指針「エネルギー基本計画」の素案を有識者会議に示しました(21日)。国際的に公約しなければならない脱炭素化社会に向け、都合のいい数字だけ並べたてました。

2030年度の電源構成は「再生エネルギー36~38%、原子力20~22%、石油2%、石炭19%、天然ガス20%」などとなっています。石油、石炭火力を大幅に減らし、再生エネは大幅増加、原子力は必要な規模を維持する。

新聞論調は「数字合わせでおわらせるな」(日経)、「原発維持は理解できぬ」(朝日)と不評です。肝心の原発については「新増設や建て替えに言及していない」(読売)です。裏付けのない数字を並べただけなのです。

エネルギーと並ぶ国の基本である「財政健全化計画」(21日)では、基礎的財政収支の黒字化は「25年度が2.9兆円、27年度に達成」としています。これも実現がまず不可能な高い成長率(名目で3%以上)を前提に置き、税収を多く見積もるなど、粉飾まがいの操作がなされています。

安倍政権以来、黒字化の目標年次を何度も再送りしてきました。エネルギーについても、財政政策についても、「ああ、またいい加減な数字の遊びをやっている」程度にしか受け取られていません。安易なのです。

政権や財務省に計画を作れば赤字が減るのではない。きちんと市場メカニズムを働かせ、財政赤字の膨張にブレーキがかかるような仕組みにするしかないのです。国債発行を増やしたら、金利が上昇して国債費が増え、財政赤字が増える動きを見えるようにしておくべきです。

日銀が異次元金融緩和政策によるゼロ金利政策を続け、大量の国債を買い込んでマネーを市場にばらまいています。だからいくらでも国債を発行でき、金利も上昇しない。

異次元緩和が続く中では、財政再建の必要性が痛感されない。異次元緩和の停止(出口)の議論を始めることが財政再建への第一歩なのです。政権、政府に財政再建計画を作られせてはいけないのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。