幕引きのタイミング

オリンピック、得意の鉄棒一本に絞った内村航平がひねり技で落下し、予選落ちしました。絶対的信頼関係を築いていた「内村と鉄棒の関係」が切れた瞬間です。「猿も木から落ちる」というのが瞬間に浮かんだ言葉でそれは残念な失敗でありましたが、私の興味の核心はそこではなく、その後続いた団体で内村よりはるかに若い日本チームが強豪の中国やロシア人チームを抑え、予選トップで通過した点です。

内村航平選手 NHKより

選手生命を考え直さねばならないのかもしれません。内村も逃げ道を作らなかったことがよかったのか、悪かったのか、微妙なところではないでしょうか?日本は粘りを人間教育の中で重視します。私もブログの中で積み上げる努力とか、20年後に得る果実という話をします。ただ、それは与件が違います。タイムや得点などを競う競技はいつまでもできるものではなく、その太く短い間に活躍した経験を次にどう生かすかが大事なところです。

幕末、薩摩、長州藩と共に名を知られたのが今の高知である土佐藩です。脱藩した坂本龍馬で知られていますが、山内容堂という藩主もなかなか個性的な人物でありました。基本的にはあまりよく書かれないのですが、一点、これが土佐の強さを作り上げたと思わせたのが、若手の重用でありました。山内自身が若手に対して全幅の信頼を寄せており、後藤象二郎や板垣退助ら若手が幕末の同藩を主導します、その彼らは坂本龍馬らとの接点を持ったのは歴史的転換点が見えてきたことがあります。脱藩の坂本は悪人という考え方を捨て、日本全体を動かそうとしている坂本とどう協業していくかにポジションを変えたのです。

坂本自身も土佐藩への恨みはあったはずですが、それを抑え、今、自分たちがやらねばならないことはもっと大きなことだ、と気がついていたのです。それが彼らの連携となり、のちの薩長土と言われる時代を築いていきます。つまり、藩主の山内容堂が時代の風を感じ取り、若手にやらせるという判断が同藩を変えていったわけです。

引き際、というのは非常に難しいと思います。一般上場企業ならば比較的簡単で〇期〇年やったら概ね交代という一つの指針があります。だいたい3期6年ぐらいやるとさすがに燃え尽きること、また企業を取りまく環境もどんどん変わる中で一人の指導力では太刀打ちできなくなることがしばしば生じるのです。

ところが創業者系の社長になると引き際がありません。何故かといえば創業の魂がそこにあり、全ての従業員は創業者の生きざま、仕事の仕方、成果を肯定的に捉える枠組みが作られているからです。悪く言えば宗教と同じ。なので、例えば自動車のスズキの鈴木修氏は御年91歳になり、今年の株主総会でようやく会長を辞任しましたが相談役としては残っています。それは修氏が実務をしなくても存在するだけで社内が引き締まるのです。同様に日本電産の永守重信氏も今年、会長に退いたもののまだまだ第一線ですし、柳井氏や孫氏はその気配すら見えません。

ただ、企業は継続性の原則がある中でこの考え方が正しいか、院政を敷くのがよいのか、私には疑問があります。アメリカのトップ企業、特にIT関係ではトップがどんどん変わります。ビル ゲイツ氏も概ね50歳ぐらいで慈善事業に舵を切り、経営のバトンを渡していますし、アマゾンのジェフ ベゾス氏も57歳ですが、既にアマゾンの経営から自分を次の目標にシフトしています。

私は創業系でありますが、この2-3年は実務はなるべく抑えながら新しいことと非日常的な事象に仕事の重きをシフトしています。定常業務は今は全体の2-3割しかやらず、あとは日々、新しいことに取り組んでいます。そうすると面白いことにお金を使うことが多くなってきたのです。いわゆる事業投資です。この2年で会社の年間売り上げの3年分ぐらい投資、ないしコミットメントが確定しているし、細かい投資は日々当たり前のようにやっています。

これは私は会社を守るという立場から新たに会社を細胞分裂させる、という気持ちにあるのです。通常業務は後進に譲って全然かまわないのです。ただ、自分がそこに居座ることで後進が育たない方がもっと問題なのです。私はまた新しいレールを築きます。10年経ったらそのレールを守ってくれる後進を更に探します。それの繰り返し。つまり自分は同じところには座り続けない、これを意識しなくてはいけないのだろと思います。

チャレンジャーとはその功績をもとにより難易度の高いところに進むことだろうと思います。地位や過信、金銭の安楽に胡坐をかいていては成長のシナリオは描けないのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月26日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。