不可解な上場会社の株式交換に筆頭株主が説明を求める --- 鎌形 尚

美術品オークションのShinwa Wise Holdingsが株式交換で競合他社を子会社に

不可解な点が多い株式交換に筆頭株主が事前質問

上場会社の取締役会が、その上場会社の役員らが株主となっている競合他社を株式交換により完全子会社とすることを取締役会において決議した。しかし、株式交換比率は上場会社が算定を依頼した第三者機関の算定レンジを大きく超えており、上場会社の役員らが株主となっている競合他社に有利な株式交換比率での株式交換契約が締結されている。さらに、割当交付される株式は発行済み株式総数の34.2%に相当し、大幅な株式の希薄化をもたらして既存株主に大きな不利益を与えることになる。

この株式交換について、上場会社の筆頭株主であるサイブリッジ(持ち株比率5.05%)は「既存株主に不利益をもたらす可能性があるにもかかわらず、十分な説明がなされていない」(水口翼代表)として8月26日の定時株主総会を前に事前質問状を提出したものの、上場会社から合理的な説明は未だになされていない。

この上場会社は、東証JASDAQスタンダードに上場している美術品オークション会社のShinwa Wise Holdings(略称SWH、東京都中央区)。

SWH HPより

株式交換によって完全子会社とするのは競合他社であるアイアート(東京都港区)で、8月26日のSWH定時株主総会の議案となっている。サイブリッジは、SWHから十分な説明がなされない場合、「株式交換に反対する立場を鮮明にする」(水口代表)。SWH株主の議決権行使書の返送締め切りは25日午後6時までの到着分であり、攻防戦となっている。

合理的な説明のない不可解な株式交換比率

株式交換によって完全子会社とするアイアートの各株主が交付を受ける株式数と時価(SWH取締役会決議日時点)は、以下の通りとなる。

伊勢彦信氏(SWH取締役会長)            139万9475株(5億8218万1600円)

リーテイルブランディング株式会社(秋元氏が代表)  63万3581株(2億6356万9488円)

秋元之浩氏(SWH取締役)                                   47万733株(1億9582万4720円)

倉田陽一郎氏(SWH代表取締役)                                4万712株(1693万6192円)

交付される株式の価額は、第三者機関の算定レンジの中央値と比べ、伊勢氏が約1億2700万円、リーテイルブランディングが約5750万円、秋元氏が約4270万円、倉田氏が約370万円それぞれ膨らんでいる。

SWHが算定を依頼した第三者算定機関の算定レンジは、アイアートの普通株式1株に対してSWHの普通株式1723.9~2254.4株。SWHとアイアートが合意した株式交換比率は、アイアートの普通株式1株に対し、SWHの普通株式2544.5株と算定価格を大きく超えている。

この点について、サイブリッジはSWHに対して、第三者算定機関の算定レンジを超える株式交換比率となったのかについて事前質問状を提出しているが、SWHからは未だに合理的な説明はない。

監査役会は今回の株式交換に「条件付き同意」と意見するも適時開示書類等には監査役会の意見が記載されず

サイブリッジから監査役会に対して意見を問う事前質問に対して、SWH監査役会は、「第三者機関の交換レンジを超えて決定されることに対しては条件を明記して同意するという”条件付き同意”の結論を出しております。」と回答。そして、「適時開示文書、株主総会招致文書の中にこの条件がはっきりと明記されなかったことに対しては監査役としては役員会にてはっきりと反対意見を述べております。」と、監査役会の意見が適時開示書類・株主総会招集通知に正確に記載されていなかったことが明らかとなった。

背景に鶏卵のイセ食品の債務返済とグループ総帥の伊勢氏のアートコレクション処分

この不可解な株式交換にはどのような背景があるのか。SWHの有価証券報告書によると、伊勢氏は92歳。大手鶏卵会社、イセ食品グループの総帥であり、2020年2月にアイアート代表取締役、2020年3月にSWH取締役会長に就任している。

伊勢氏が関与する会社が、2018年7月に大阪の名物格安スーパー「玉出」45店舗の営業権を約46億円で買収した。ところが同年12月、「玉出」の創業者が大阪市西成区の飛田新地の店舗を売春に使われると知りながら暴力団幹部に貸して賃料を受け取っていたとして組織犯罪処罰法違反の疑いで逮捕され、伊勢氏が関与する会社はコンプライアンス問題を抱え込んでしまった。

「金融機関は反社会的勢力とのつながりに極めて敏感。伊勢氏個人の会社の問題とはいえ、イセ食品本体に対し、債務の返済を求めている。」(関係者談)。一方、伊勢氏は印象派絵画のコレクターとして知られ、「伊勢氏としてはアートコレクションを処分して、イセ食品の債務返済分の穴埋めに充てようとしている。すでに8月末分、9月末分と動き出している」(同)。

SWHは伊勢氏コレクションのオークション取り扱い欲しさで“言いなり”?に

専属売買権を得られるから株式交換比率は妥当と説明

SWHの2021年5月期のオークション関連事業の取扱高は41億2700万円、売上高は18億6900万円、セグメント利益は2億7500万円(100万円未満切り捨て)。倉田社長にとって、伊勢氏のアートコレクションのオークション取り扱いは「喉から手が出るほどほしい。そこで伊勢氏を会長に、伊勢氏の部下の秋元氏を取締役に迎え入れた」(同)。今回の株式交換比率が第三者算定機関の算定レンジを大きく超えたのは「伊勢氏が了承しなかったから」(同)という。

こうした状況下で、SWHは8月16日、サイブリッジからの事前質問に対し回答した。これによると、「アイアートの代表取締役である伊勢彦信氏がこれまで取得してきたアートを所有管理しているイセ株式会社との間で、そのアートの一部をSWHが専属売買する権利を得るという内容の基本合意書を締結しており、本株式交換後は、伊勢氏個人の所有であるコレクションについても専属売買権を大いに期待できるものとなる」と、株式交換比率の妥当性に言及している。

サイブリッジは新たな事前質問状送付

ガバナンス機能不全、発行済み株式の34%相当の割当交付で希薄化される株主の判断は

しかし、サイブリッジは専属売買権の取得はSWHとイセ株式会社及び伊勢氏個人との取引であり、アイアートを完全子会社とすることとは直接関係がなく第三者算定機関の算定レンジを大幅に上回る株式比率による株式交換の合理的説明になっておらず、第三者算定機関が算定した算定レンジの合理性なども含めて、改めて今回の株式交換について回答を求める新たな事前質問状をSWHの取締役・監査役あてに送付した。

サイブリッジは、納得できる回答がなければSWHによるアイアートの株式交換完全子会社化に反対する方針だ。SWH株主の議決権行使書の返送締め切りは25日午後6時、そして26日がSWHの定時株主総会開催日。イセ食品と伊勢彦信氏によるSWH支配が着々と進み、コーポレート・ガバナンス(企業統治)が機能しない中実施されようとしている株式交換。大幅に株式が希薄化する既存株主はどのような判断を下すのだろうか。それは日本の資本市場の健全性を映す鏡ともなるだろう。

鎌形 尚
弁護士。1991年生まれ。明治大学法学部卒。慶應義塾大学法科大学院修了。TMI総合法律事務所入所後、selfLegal株式会社代表取締役社長CEO、鎌形総合法律事務所代表。