昨日、記事「データ処理がなければデジタルヘルスは役立たない」を公開した。デジタルヘルスでは多様な機器の開発も重要だが、ヘルスデータの処理がもっと大切であるという内容だった。
機器のデータが自動的にセンタに送信されて過去のヘルスデータと共に解析され、診断を下したり緊急対応したり健康指導したりする社会を実現するには、もう一つ欠かせないポイントがある。それが「標準化」である。
パルスオキシメータが測定した脈拍と酸素飽和度を「P=80, O=95」と送信するのと「P80, O95」が混在したら、受信データを理解するためにセンタ側の負担が増す。同じ形式で送信すれば負担は減る。ここに標準化のニーズがある。
すべてのパルスオキシメータの測定結果が同じになるか、という点にも課題がある。A社機器はO=95と測定したが、B社機器では92で、本当は緊急対応が必要な92だったとしたら、A社機器を使用していた患者には命の危険が生じる。測定精度にも基準が必要で、これも標準化の課題である。
病名にも標準化が必要になる。C社の電子カルテシステムや電子健康記録(EHR)システムでは俗名の「盲腸」で記録し、D社は「急性虫垂炎」という正式名で記録しているとしたら、両社のシステム間ではヘルスデータをスムーズに交換できない。コロナワクチンの副反応を抑えるというカロナールはアセトアミノフェン製剤の一種だが、システムに記録する際には、同様に、統一しなければならない。
医療には、電子カルテシステム、臨床検査システム、画像情報システムなどが組み合わされて使用される。それゆえ、同種のシステム同士では相互互換性が、異種のシステム間では相互運用性を確保する標準化が必要になる。医療情報システムでは、あらゆる側面で標準化が重要なのだ。
欧州は、欧州連合の下でモノとヒトの往来を自由化している。それゆえ、患者が異なる国で受診するというケースも想定されるため、欧州標準化委員会CENの下で医療情報に関わる標準化が進められている。
米国では、医療情報システム設計の際に守るべき最低要件が連邦政府によって提示されており、最低要件への準拠が法律によって規定されている。一方で、EHR等の普及を促進するインセンティブが政策に組み込まれているため、2010年代に標準システムが国内に急速に普及した。これらの点は、厚生労働省の報告書に詳しく解説されている。
デジタルヘルスが広範に活用される社会を展望すれば、わが国も医療情報の標準化に覚悟を持って取り組む必要がある。政府が最低要件を定めて医療情報システムメーカに強制する施策、また、前の記事に書いたように、診療所への電子カルテシステムの導入に公費を投入する施策も必要になるだろう。
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情報通信政策フォーラム(ICPF)ではデータヘルスについてZOOMセミナーを開催する。医療情報の標準化についても議論する予定なので、どうぞ、ご参加ください。