「ワクチン接種者のみの入国時隔離免除」は科学的根拠がない

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経団連が「ワクチンパスポート」を活用して、ワクチン接種者に対する入国時の隔離免除を検討すべきだという提言をするというニュースが出た。

ワクチンで入国時の隔離免除を…経団連、政府に提言へ

ワクチンで入国時の隔離免除を…経団連、政府に提言へ : 経済 : ニュース
経団連が、コロナ禍で社会経済活動を正常化させるためにまとめた新たな提言案の概要がわかった。新型コロナウイルスのワクチンを接種した人に対する入国時の隔離免除などを求めている。近く公表し、政府に働きかける方針だ。 提言案は

私は、この提言には科学的根拠がないので、国の防疫当局は認めないだろうと考える。

このことを理解するためには、まず国ごとの防疫に対する考え方を知る必要がある。日本と欧米諸国では、国境措置に対する考え方が全く違うのだ。

私はこれまで出入国に関する記事をいくつか書いているので、よろしければまずそれら(以下4記事)を参照して頂きたい。

日本人はワクチンパスポート無しで海外旅行ができるか
国境開放の流れで世界から取り残される日本
EUのワクチンパスポートはワクチン接種証明ではない
新型コロナ対策の国境措置は「CIQ」のうちのどの対応なの?

日本の防疫の考え方は「海外からの新型コロナウイルス侵入をゼロにする」である。一方欧米は「侵入をゼロにはできないが、極力低くする」という違いがある。

日本で入国後の14日間隔離を課しているのは、PCR検査だけではすり抜けられるウイルス保有者がいて、その人たちを14日間隔離しておけば、その間に発症するはずだ。発症しなければ、仮にウイルスを保有していても排出されており、他人に感染させる可能性はない、という理屈だ。特例でオリンピック関係者の隔離免除を可能にしたのも、14日間の行動を管理することで、仮にウイルス保有者であっても、接触者をトレースすることによりウイルスの拡散を防げる、という考え方からだ。

それに対し欧米では、「ゼロにはできない」という発想が基本である。だから、ウイルス保有確率が低い属性の人は隔離なしで入国させている。私は昨年秋にフィンランド、スウェーデン、ポーランドに入国したが、何の検査もなく入国でき、入国後の隔離もなかった。それは、日本在住者であればウイルス保有の可能性が低いと判断しているからだ。可能性ゼロではない。可能性が低い、ということである。

こうした考え方の中では、ワクチン接種も「ウイルス保有の可能性が低い」という根拠の1つでしかない。だから入国時の条件として「罹患者が低い国の在住者は無条件で入国させる」「その次のレベルで低い国の在住者は、ワクチン接種者であれば隔離なし、非接種者なら隔離が必要」などの措置が取られる。あくまで条件の1つであるので、「ワクチン接種者なら全ての国からの入国が可能」「非接種者でも罹患者が少ない国からの入国者なら隔離なし入国が可能」というような順番付けもある。決してワクチン接種者だけ別枠で扱っているのではないのだ。

ワクチンを接種しても、新型コロナに絶対に罹患しない、ということはない。例えばワクチン接種済みでハワイ旅行をした人と、ワクチン未接種でニュージーランド在住の人とでは、新型コロナウイルスを保有している確率はどちらが高いだろうか。私はハワイ旅行をしたワクチン接種者だと思う。

日本でワクチン接種者のみに隔離免除をさせる、というのは、日本の防疫の原則から外れる。だから私は絶対に認められないと思う。国境措置を緩めさせるためには、ワクチン接種の有無ではなく「ゼロコロナをやめよう」という要求をして、防疫方針を変えさせるしかないのだ。「ウイルス保有確率の低い人は、隔離なしで入国させよう」と訴える方が現実的なのだ。

防疫に関する話として、国際航路の事例を挙げる。福岡と釜山を結ぶジェットフォイル便のなかで対馬に寄港していた便があったが、国際線であったため対馬と福岡の間だけを乗船することはできなかった。それを関係者の働きかけで、船室を分けて国際線の客と国内線の客が接触しないようにすることで、国内区間のみの乗船も可能になった。このことに最後まで反対したのが検疫所で、理由は「カーテン1枚で仕切られた客室では、伝染病を防げないので防疫上問題がある」というものだった。日本の防疫当局は、ここまで原理原則にこだわる。実際に空港や港でどういう検疫をやっていたかといえば体温を測るだけである。国際線の飛行機を利用した人であれば入国審査前に体温測定をする機械が置いてあって、そこを通っていたということは覚えているだろう。記憶すらしていないかもしれない。混乗便では国内区間の利用客に対しその措置ができないから、国内線と国際線の混乗に反対したのだ。ちなみに混乗が許可された後は、船内で体温を測るようになった。

ちなみに「ワクチンパスポート」と呼ばれるものは、あくまでワクチンの接種記録である。ワクチンパスポートを持っていれば生涯有効というものではない。EUの場合、半年以内にワクチン接種をしていることで有効になる場合が多い。となると、この制度を導入すると、半年ごとにワクチンを接種し続けないといけないのだ。

欧米であれば、制度を導入してもすぐに改正されることはよくある。しかし日本は一度導入した制度はなかなか変わらない。仮に「入国時にワクチン接種者は隔離免除」という制度を導入すると、最低でも2〜3年は半年ごとにワクチン接種をし続けなければならなくなるだろう。これは今ワクチンを打っている人にとっても、いいことではない。最初から「防疫の考え方を変更して、入国時の隔離措置を緩めよう」と要求した方が、ワクチンを打った人にとっても打たない人にとっても、いい方向に動くと私は考えるのだが、いかがだろうか。