圧倒的に多い金メダルの政治学
東京パラリンピックが終わりました。メダル獲得数の一覧表を眺めていて、中国のメダル獲得数が群を抜いているのに驚きます。
「表彰台から流れてくるのは中国の国歌ばかり」とやっていたのは、どこかのテレビでしたか。総種目数528のうち、中国の金は96個、5人に1人が金メダリストになり、毎日、何回も中国の国歌を聞かされます。
「障害の内容や程度は違っても、自らが秘めている能力を伸ばし、新たな世界を開く。選手たちの躍動を通じて、人間のもつ可能性を肌で感じ取った人は多い」と書く朝日新聞の社説に異論はありません。他紙も「社会を変える好機となるパラ選手の活躍」(日経)と似ています。
社会部か運動部系の論説記者が書いているのでしょうか。五輪やパラリンピックを動かしている政治経済学に少しは踏み込んだ解説も書いてくれないものだろうかと、不満に思っています。
メダル獲得数のトップの中国は「金96個、銀60個、銅51個、計207個」です。2位の英国の金は41個で、中国も半分にも及ばない。3位は米国の金37個に過ぎず、メダル総数の104個は中国の半分です。
パラリンピックの前の五輪では、金メダルは米国39個、中国38個で、米国と中国が熾烈な順位争いをしています。その米国はパラリンピックになると、中国にどうしてこんな大差をつけられてしまうのか。
世界最大の競技会なのに、日本のメディアは日本しか見ていません。「パラリンピックで、日本は金13個もとり、リオのゼロをはるかにしのぎ、14年のアテネの14個に次ぐ2番目。参加選手は221人で史上最多となった」と。「よくやった、よくやった」なのです。
五輪の金は、2位中国の38個に次ぐ3位27個と、日本は健闘したのに、パラリンピックでは11位13個ですから、「どうしてこうなの」という疑問を投げかけてもらいたいのです。
米国の金は五輪では39個でトップ、パラリンピックでは37個で3位ですから、やはり「どうしてこうなの。中国はなぜパラリンピックに強く、米国は弱いの」と、考え込んでしまいます。
いろいろな解釈があるようです。まず、賞金(報奨金)の差でしょうか。「米国は五輪の金が410万円、パラの金が80万円」です。「五輪の金には、スポンサー企業の多額の報奨金も出るでしょうから、「五輪の選手は頑張っても、パラは必ずしもそうはならない」との見方もありえます。
中国は賞金を公開していません。伝わってくる金額は、「パラでも数千万円。一生、楽に暮らせる」とかですから、選手が懸命にならないはずはありません。シンガポールでは五輪の金の賞金は1億円とか。
次いでに触れると、日本の金メダルの報奨金は「五輪が500万円、パラが300万円」です。障害者の苦労は、語るも涙の物語です。差をつける必要があるのか疑問に思うほど僅かな差ですし、同額にすべきでしょう。
「中国は社会主義を標榜している国なので、障害者に対する支援が手厚く、スポーツ選手にも配慮している」という説も聞きます。もっともらしい解説です。どうでしょう、実態と違うようです。
米欧日などの先進国のほうが、障害者支援は整っているようです。それに比べ中国の支援は劣り、「スポーツ選手向けに目立つような支援をしているのは、障害者支援の遅れを隠すため」との説が正しいのでしょう。
「障害者が中国で生きていくには、スポーツで秀でた実績を残すに限る」ということでしょう。もっとも賞金ばかりでなく、広州市などには障害者スポーツの専門施設があると、NHKが紹介していました。
体育館、プール、陸上競技場、各種のトレーニング・ジムが整っており、朝、昼、晩の練習が組まれ、上位選手を鍛えあげているそうです。国内対策、対外アピールを兼ねた政治経済学が背景にあるのでしょう。
中国の人口は14億人(米国3.3億人)ですから、障害者も多いことでしょう。96人ゴールド・メダリストの優遇は目立ちますし、しかも安上がりの障害者対策であるのに違いありません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年9月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。