論考13では、改革に本腰を入れた消防庁の指針と、今後の経過について概観しました。また、その結果残る「潜伏型横領」の存在とその継続が、刑事事件に発展する未来を予見しました。
(前回:防災と消防団⑬)
本稿では、「潜伏型横領」の解説と、それがなぜ今後「刑事事件に発展するのか」という点について考えます。
消防団における潜伏型横領
私はこれまでの論考で、団員報酬は「正しく」個人口座に振り込むことが重要と述べてきました。
ここで重要なのは「正しく」という部分です。
先般紹介した書籍「幽霊消防団員」にも書かれていましたが、全国の複数の消防団では、①団員に個人口座を作らせて、②その口座の通帳を部が管理し、③行政から払い込まれた団員報酬を部が実施する宴会等に利用する、という運用をしています。この場合、団員報酬は確かに個人口座に振り込まれていますが、「不正に」利用されています。これが、「潜伏型横領」です。
私が全国の団員の皆さまから寄せていただいたり、独自に調べたりした情報を元にすると、感覚値としては2、3割程度の消防団が、未だそのように運用している印象です。消防庁の調査は「団員の個人口座に振り込まれているか」までの確認であり、「その口座に振り込まれた金員を団が回収して別目的で利用していないか」は把握していません。その行為を消防庁が実態調査するには、法的にあまりに危険な行為だからでしょう。
驚くべきことに、消防団によっては団員から「自分の個人口座の利用を部に一任する」委任状をとっている、という事例も私の元に届いています。
説明するまでもないことですが、個人の財産たる銀行の個人口座を、法的根拠のない委任状1枚で部が管理できるほど、我が国の個人財産権は脆弱なものではありません。このような委任状は、今後は単に「部の不法行為」の証拠物件になるだけです。
行政の段取りと司法判断は「暗黙の了解」でセットとなっている
確かにこれまでは、過去の慣習を踏襲してそのように運用しても咎められることはなかったかもしれません。しかしそれは、「行政側のリスクヘッジ」が完了していなかったからにすぎません。
私が先の論考で「行政が消防団改革を渋ることができた期間が、本年4月13日に終わりを迎えた」と述べた理由は、すでに国側の「やるべきこと」が完了したからです。
先の論考のとおり、国が立法のうえ指針を示し、市町村がそれに倣ったら、それ以降に残った不法行為は「行政が手に負えない犯罪」です。つまり、これまで外形的に国策との関係がわかりづらかったために立件を躊躇していた公金不正について、司法サイドが「刑事罰を与えてよい」と判断できる状況が整ったわけです。
そして、これ以降発生するのが「みせしめ逮捕」です。私は、この不正の広がりと深刻度を国民に示すために、次年度以降数年で何件か立て続けに逮捕事案が発生するとみています。
「うちの団員は皆口が堅いから、情報は外にもれるはずがない」と考えているとしたら、それは大きな間違いです。
情報は、例えば団員の親族や地域住民が知っているかもしれない。またその情報がメディアに伝わり、報道されるかもしれません。そうなったら過去の不正行為まで暴かれて、関係者が複数人逮捕されることになることもあり得ます。消防団員からしてみれば、やっている行為はこれまでとまったく同じでも、すでに社会は行為者を「国策に反し、我が国の消防団を弱体化させる犯罪者」に認定する準備ができているのです。
繰り返しますが、私の理解では部による団員報酬の宴会利用は公金横領であり、水増し請求は行政に対する詐欺行為です。このような罪で実刑が決まれば、あなたが積み上げてきた人生は一瞬で崩壊します。またそうなった場合、これまで消防団不正で甘い汁を吸っていた利権議員は絶対に助けてくれません。私は、善意で消防団に入り、地域防災を担ってくださっている方々にそのような人生を送ってほしくはありません。これらの行為は、即刻お辞めください。
「防災と消防団」連載のまとめ
本連載では、14回の長きにわたって、主に消防団に関する議論のうち
- 市民の寄付の是非
- 団員報酬の組織的な公金不正
の二点について考えてきました。
「1.」については、賛否含めたくさんのご意見をいただきました。本件について、本来は市民国民の代表である政治家がそれぞれ意見を発表するべきものと考えますが、賛否両論とも(特に賛成側)論考はほとんど存在しません。今後の議論に期待します。
「2.」については、これまで見てきたとおり「待ったなし」で改革が必要です。この事案で人生を棒に振るのは、地域の一般団員の皆さまであって、関係した議員や行政は「あずかり知らぬこと」という態度で最後まで逃げ切ろうとするでしょう。
善意ではじめたことで、人生を台無しにするほど悲しいことはありません。本稿を読んだ方のうち、一人でもことの重大さに気づき、不正行為をやめる決断をすることを願ってやみません。
(完)
【関連記事】
・防災と消防団①:岐路に立つ消防団システム
・防災と消防団②:消防団と寄付
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・防災と消防団⑤:消防団への寄付を存続するための試案
・防災と消防団⑥:消防団への寄付を存続するための試案
・防災と消防団⑦:消防団への寄付に関する法的整理
・防災と消防団⑧:改善を阻む地方議員
・防災と消防団⑨:公金横領の横行
・防災と消防団⑩:公金横領の一類型
・防災と消防団⑪:公金不正と消防団の弱体化
・防災と消防団⑫:公金不正の改善を阻む3つの力
・防災と消防団⑬:地下に潜る横領と逮捕(前編)
・防災と消防団⑭:地下に潜る横領と逮捕(後編)