2016年8月30日の産経新聞ウェブ版は、麻生太郎副総理の非常に興味深い発言を報じていた。それは日本国民の投資についての意識に関するもので、「何となく債券、株に投資するのは危ないという思い込みがある。あれは正しい」としたうえで、「われわれの同期生で証券会社に勤めているのは、よほどやばいやつだった」と述べられたというのである。
更に続けて、先生は、証券業界に関して、「詐欺かその一歩手前のようなことをやり、「あんなやくざなものは辞めろ」と親に勘当されたやつがいるぐらいだ」と述べたうえで、「怪しい商売は不動産と証券だった。昭和30年代、40年代に学生だった人は誰でも知っている」と語ったそうである。
麻生先生は、今も当時も、副総理であるのみならず、金融庁を管轄しているから、証券会社を監督している大臣の発言としては、当然に、物議を醸す。実際、「よほどやばいやつ」とか、「ほぼ詐欺」とか、「やくざなもの」とか、「怪しい商売」などといわれれば、証券会社から多少の苦情があっても不思議はないが、物議を醸すからこそ、おもしろいわけで、おもしろいからこそ、報道価値があったのである。
しかも、当時、75歳だった麻生先生にして、古い時代の個人交友のなかで、「よほどやばいやつ」が証券会社に入社し、そこで、「ほぼ詐欺」のようなことをしていたと感じていたとしても、また、証券業を「怪しい商売」とみなす風潮があったという歴史認識をもっていたとしても、少しも問題ではない。
実際、急速な高度経済成長を実現していたなかで、即ち、物価も、株価も、地価も上昇するなかで、証券業と不動産業は、投資と投機の境目において、投機色の強いものとして、大活況を呈していたわけだから、それを「怪しい商売」の大繁盛と表現することにつき、少しも違和感はないのである。
むしろ、すっかり活力を失った現在と比較すれば、当時の株式市場と不動産市場の怪しさのほうが望ましいとさえ、いえるのである。
森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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