新庁舎整備を奇貨とした自治体DX推進:中野区を事例として

DX推進の最たる例として、JR東日本の企画系の職員から聞いた一昔前の事例を挙げます。

乗降客数が世界一であるJR新宿駅で、自動改札機の導入前、新宿駅中央口の有人改札の職員は切符の日付、搭乗駅、値段の瞬時のチェック、改札ばさみで切符を切る作業はすごい集中力が必要だったとのことです。

(1990年JR新宿駅有人改札の様子)

通勤ラッシュ、ピークの時間帯に有人改札ボックスに職員が入っていられる時間はたったの『15分間』だったそうです。

大変な業務であるため、自動改札機の導入を検討したところ、仕事がなくなると、労働組合から猛反対があったそうです。

しかし自動改札機を導入し、できた余力をホテル事業や不動産、キオスクのような小売業を展開し、国鉄負債の返済の一助となっていきました。

結果的に有人改札にいた職員たちは、「地獄から解放された」といって喜んだそうです。切符の処理は人間のやるような仕事ではなく、奴隷のような作業だったわけです。

おとぎ話のような話ですが、機械が導入できる仕事は機械に任せ、ルーチンワークから人々を解放することで新しいアイディアの創造、仕事ができる余力が生まれるわけです。

私が区議会議員を務める中野区は、3年後に控えた新庁舎移転を転機として、業務改善、働き方改革、組織改編、DX推進することで、生まれ変わるチャンスが巡ってきました。

中野区新庁舎イメージパース
出典:中野区HP

デジタル庁の創設によりDXの重要性がさらに声高になっておりますが、あくまでDX推進とは働き方改革のひとつの手法に過ぎません。

中野区政は働き方改革・業務改善をどうしたいのか、望むべき展望がなければ、DX推進は各職員への押し付けにすぎず、逆に業務の効率性が落ちる可能性すらあります。

区民と区職員の納得と理解が得られる方針を立てる必要があります。

しかし自治体の各部署の職員が働き方改革を考えると、単なる事務改善といったレベルの内容となりがちで、さらに住民サービスを向上させる概念が足りなく、職員の作業効率だけを考える可能性すらあります。

公務員は、どんなに頑張ろうと頑張らなかろうと給料がほぼ変わらない給与体系、また管理職になると2、3年で部署替えが行われるため、面倒くさいことに手を付けずに前例踏襲主義で仕事をする職員が多いのが現状です。

わざわざマニュアルを変えて、失敗の可能性を高くすることはしません。

私は4年間、国家公務員を務めた経歴がありますが、1週間で終わる仕事を2週間かけて断るという職員を見たことがあります。

その仕事を断る熱量を仕事に向ければ、すぐに終わると思いましたが、それをやると次々に仕事が振られるためにやりません。

性悪説で仕事に対する熱意が高い職員が役所内には少ない前提で、業務改善、働き方改革、DX推進などを一体的、総合的に検討、推進できる強力な体制を自治体の執行部とやる気がある若手職員を中心に実行していく必要があると考えます。

業務改善、働き方改革推進のためにはマインドチェンジをし、現状ある仕事のシステムを抜本的に見直し、ときには部署を撤廃する覚悟も必要だと考えます。

しかし自分の仕事は不要と認めるような職員はいないでしょう。

JRと同様、担当部署が自ら撤廃を提案することは難しく、組織内で高所大所の視点から改編する必要があります。

そして今までのやり方が変われば、必ず抵抗勢力が生まれるのは世の常ですが、自治体の執行部はそれらと戦っていく覚悟が必要です。

業務改善、働き方改革といってもワンストップサービス、オンラインサービス、テレワーク、データ統合、レイアウト、会議の方法、内線電話のIP化、フリーアドレス、ペーパレスなどを踏まえたDX推進と手段だけを挙げても、とてつもない数の検討事項があります。

ペーパレスを例とすれば、紙に書く、郵送する、保管するなどの作業をなくすこと自体が改善につながり、区民、事業者からのニーズを満たし、職員の負担の減少につながります。

具体例を挙げれば、保育園の入園申し込みに係る書類はオンライン申し込みが始まりましたが、提出書類の一部郵送が求められるため、現状は10%未満の利用です。

私立幼稚園・保育所、工事業者、委託事業者などからも書類の簡素が求められており、それが実現すれば、本業に力を注ぐことができ、質の確保が可能となります。

会議においては、会議室の確保、議事録作成、その内容の承認など会議のたびに作業が生じますが、オンライン会議も可能とし、会議中に議事録を作成し、その場で承認を得られれば、作業は大幅に減ります。

また議事録承認においては、長時間議論をしても結局何も決まっていない会議が多数あるため、最後に参加者全員が納得できる決定事項がまとまるように逆算的な会議運営能力を育むことができれば、無駄な会議を何回もやる必要はなくなります。

内線電話の効率化については、豊島区の事例を挙げると、係ごとに電話機が1~2台しかなかったため、内線電話の取り次ぎに時間を要し、不在の際は電話メモを残すなど手間があったが、内線電話をIP化することで効率が上がったことです。

現在、私は中野区議会で情報政策等調査特別委員長として、様々と提案、議論をさせていただいておりますが、区はひとつひとつ仕事を見つめなおし、抜本的な働き方改革をすることで職員の時間、余力を作り出し、行政サービスの向上を図られたいと願います。