アルゼンチンのインフレ率が1440%になった理由:過酷な状況で生活する市民

高騰するインフレの中で生活するアルゼンチン市民の現実は厳しい。

最近10年間の累計インフレ率は1440%

ラテンアメリカで超ハイパーインフレの国としてベネズエラが良く知られている。それを例外として次にインフレの高い国はアルゼンチンだ。この国は慢性的に高いインフレに見舞われている。

昨年1月付の現地紙「アンビト」が2010年から2019年までの累計インフレ率は1442%、年平均30.6%だという数値を示している。

例えば、マウリシオ・マクリ前大統領の任期満了の2019年は53.6%のインフレ率を記録している。期待されて大統領に就任したアルベルト・フェルナンデス氏の政権も今年のインフレは50%近くになると見込まれている。

物価高騰の中でのアルゼンチン市民の暮らしぶり

一昨年2019年10月にスペインのガリシア州代表紙「ラ・ボス・デ・ガリシア」が高いインフレの中で生活しているアルゼンチン市民のコメントを掲載している。

因みにガリシア州でアルゼンチンのことについて関心が高いのは、スペイン人の中でアルゼンチンに移民した人の多くがガリシア出身者という背景があるからだ。だから、今でもアルゼンチンではスペイン人からの移民を総称して「ガリェゴ」(ガリシア人)と呼んでいる。

また日本では馴染みのない高インフレの中で生活するということがどのようなものか知るのに同紙の内容は参考になる。この取材が行われた時はアルベルト・フェルナンデス現大統領はまだ就任していなかった。

  1. 首都ブエノスアイレスに在住するラファエル・クアドゥラドさん(58)はガリシアから7年前に里が恋しくなって家族と一緒にアルゼンチンに戻ったという。彼は「アルゼンチンに戻った当初は政治情勢に不安を感じるようになるとは想像しなかった。落ち着いて生活できると思っていた」と語り、高いインフレを前にして「インフレの中で生活するのは容易ではない。生活が無秩序になってしまうからだ」と述べた。また、彼の娘マルティナさんも「インフレで生活するのはごちゃごちゃになってしまう。その日その日にいくらお金を使うことになるのか全く分からなくなるからだ」と語り、次期大統領に期待していることを表明した。ところが、その期待された新大統領アルベルト・フェルナンデス氏も前任者と同じくインフレを抑えることができないでいることは彼女が取材に答えた時はまだ知る由もなかった。
  2. 同じくブエノスアイレスで教師をしているメルセデス・ナバリャスさん(35)はインフレで貯金をすることができないとした上で、「家賃とスーパーでの買い物でお金は無くなってしまう」と語った。彼女によると、物価は毎週値上がりし、家賃は3か月毎に上がるそうだ。「ところが、給与は物価の上昇に合わせて支給されることがない。だから我々の購買力は低下している」と答えた。
  3. 年金生活をしている母親と一緒にブエノスアイレス県ビーリャ・アデリナ市で生活しているスペインに5年在住経験のあるマキシミリアノ・パンドさんも大統領選に期待していることを表明した上で、「アルゼンチンで週末になったら外食するという贅沢もできなくなった」と述べた。
  4. ブエノスアイレス出身でスペインのマラガに住んだ経験もあるウーバータクシーの運転手ペペさん(54)は再び外国に出たがっている。「スペインではできたことが、ここではもう想像でさえもできなくなっている。例えば、定年のことを考えてお金を貯めることだ」と語り、「もう騙されない。これ(インフレ)はもう誰も調整できなくなっている」と、断言した。
  5. ガリシアのルゴ地方出身でブエノスアイレス県の北部に位置するティグレに3年在住しているロペスさんはアルゼンチン出身のフィアンセと生活するのにアルゼンチンに移住したとそうだ。スペインとアルゼンチンの文化の違いを語った後に、「アルゼンチンはスペインと比べてもっとその日暮らしだ。スペインだと落ち着いて生活できていた。必要なものはすべて手に入れることが出来たからだ」と説明した。彼女は手工芸者で露店で彼氏と一緒に作品を売ってひと月1万2000ペソ(1万4000円)程度を稼いでいるという。これで必要な材料を手に入れて生活しているそうだ。

さらに、彼女が指摘しているのはスペインよりもすべてが高く、その一方で給与はかなり低いということだ。

最後に取材記者が次のようなことを指摘している。

通貨ペソの継続的な下落の前に多くのアルゼンチン人は米ドルを手にれ入れようとしていることだ。地下経済ではジョージ・ワシントンの顔が印刷されたドル紙幣で満たされているということ。レストランでも支払いはペソ、米ドル、ユーロの3通りで出来るようになっているということ。ドルで買い物をするのであれば値引きを要求するのも嫌な顔はされないそうだ。

このような事情を抱えている国に外国から投資するのは容易ではない。と同時に法定通貨を米ドルにするべきだという論争が常に起きている。