ミスター現状維持:岸田首相は日本を変えられるのか

自民党HPより

河野が勝つ予定だった?

いわゆる「フルスペック」で開催され、連日メディアを賑わせた自民党総裁選は岸田新総裁誕生で終わりを迎えた。

しかし、市場からすると意外な結果であったらしい。ブルームバーグが実施したエコノミストを対象にした世論調査によると、75%が河野太郎氏の勝利を予測していた。世論調査での高い支持率がそのまま自民党の総裁選で反映されて、そのまま河野氏が新総裁になると予測していたのであろうか。

もし、そうであるならば、自民党内の総裁選出プロセスに関しての理解が低かったエコノミストが多かったと言わざるをえない。自民党の総裁選で勝つには二つの層からの人気を得なければいけない。ひとつは約100万人の自民党の党員・党友票で、もうひとつが国会議員票である。

前者は高市氏の躍進を考えると一般的な国民よりも保守的な考えを持った人が多く、後者は世論の人気の有無ではなく、それまでの付き合いの延長線上で票を投じる人たちが多かった。それゆえ、その二つの層が世論の声と乖離があることを考えれば、リベラルであり、同僚議員からの人望が薄い河野氏が容易に勝つとは断定できなかったはずである。

また、事前の予測で岸田氏が勝つことを予想するのはそれほど難しいことではなかった。自民党の総裁選の特徴として議員からの人気が総裁選での勝利の鍵を握る。2001年の小泉氏のように党員からの圧倒的な支持があれば党員票が議員票と同等の力を持つ第一回投票で勝利宣言をすることは可能である。しかし、それができなければ、党員票が議員票と相対して著しく低い決選投票に入る。確かに党員票で河野氏は他候補を引き離していてはいたものの、圧倒する域までは到達せず、彼の過去の持論が足を引っ張り決選投票では自党内の議員から不人気を露呈してしまった。

現状維持は現状以下?

しかし、連日の日経平均株価の下がっているところを見ると、投資家たちの河野氏の勝利に対して真剣に期待をしており、逆に岸田氏にあまり期待していなかったことの表れではないかと筆者は考える。

歯に着せぬ発言で物議を醸し、改革志向が垣間見られる河野氏とは違い、自民党内の既得権からの支持を得て総裁選を勝った岸田氏に日本の抱える課題を抜本的に変えそうな気はしない。そのことから、ファイナンシャル・タイムズ紙が岸田氏に命名した「ミスター現状維持」という名前は市場全体の岸田氏に対する思いを代弁しているのではないだろうか。

そして、自民党内の要職を安倍前首相の派閥や側近から選出されていることを考えると大きな変化は岸田氏によって生み出されないと考えてしまう。

しかし、筆者としては良い意味で市場のみならず、国全体が持っている、「岸田氏では何も変わらない」というイメージを裏切ってもらいたい。

日本は現在国内外で国難に直面していて、変わらなければいけない状況にある。国内に目を移せば、少子高齢化が着実に進行し、日本という国が国民を養い、世界で戦うための持久力を奪われている。また、国外では北朝鮮、中国といった国々がミサイル実験や海洋進出を続け、アメリカの相対的衰退は東アジアで力の空白を生じさせる可能性がある。もし、日本を取り巻くパワーバランスが崩れてしまえば、日本社会の経済、安保、エネルギーなどといったあらゆる側面で甚大な被害が与えられることになる。

日本は変わらなければいけない時代に突入している。そのために世論からの批判を恐れずに長期的な視野で物事を考え、政策を推進させるリーダーが求められている。

果たして岸田氏は実際のそのようなリーダーになるのか。総理になれたことで安住して現状維持を貫くのか。

筆者は岸田氏の安倍陣営に対する配慮が今後大きなことを実現する上での地盤づくりなのだという希望を持ちたい。さらに、岸田氏が自分だけではなく日本という国を良い方向に変えるリーダーになれることを注視していきたい。