法案の内容に影響を与えるためには〜国会提出後〜

1.政府が出した法案が成立しないこともある

突然ですが、皆さんは政府が国会に提出した法律のうち、どれくらいが成立すると思いますか?

衆議院議場 衆議院HPより

衆議院のHPによると、2021年の第204回通常国会で審議された閣法(内閣が提出した法律)は64本。そのうち62本が可決成立、2本が継続審議となりました。少ないですが5%程度の法律は成立しないということになります。

参考:継続審査とは
国会の会期中に、国会に提出された法案については、その国会の期間内に成立させることが原則です。国会の期間内に成立しなかった法案は廃案となります。ただし、国会で継続審査の議決を行った場合には、次に開催される国会で引き続き審議することができます。

国会の過半数を占める与党の人間で構成された内閣が、この法律が必要だ、と閣議決定して国会に出した法律です。そして、閣議決定前には事前審査という与党の了承を得るプロセスを経ています。普通に考えれば、100%通るはずです。

でも実際にはそうなりません。閣法を提出したからといって必ずその国会の期間に成立するわけではないのです。

今回は、政府与党の議論を経た後、国会に提出された法案が成立するまでのプロセスをご説明し、法案に影響を与える方法を考えていきます。その中で、国会に提出された閣法が成立しないパターンについても解説します。

政府与党内での法案策定プロセスを解説した前回の記事と今回の記事を合わせて読めば、ぼんやりとしか見えていなかった政治ニュースの内容の解像度が上がること間違いなしです。

2.国会審議をチェックすべき理由

気になっている法律の国会審議は、生中継でみましょう。それが無理ならせめて議事録にはしっかり目を通しましょう。

多くの人は審議が終わったあと、国会審議の内容を新聞やネットニュースで見るだけかと思いますが、生の情報に触れていただきたい理由があるのです。

その理由は、国会の質疑の中で、その法案の具体的な内容が明らかにされることがあるからです。

実は法律の条文からは制度の大枠は把握することはできますが、その具体的な内容を詳細に知ることは意外と難しいのです。

制度の詳細は、法案が成立後、法律の下位に位置する政令や省令、さらには大臣告示や局長通知などで定められます。

例えば会社法にはこんな条文があります。

(業務の執行)
第348条 第3項 前項の場合には、取締役は、次に掲げる事項についての決定を各取締役に委任することができない。
四 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

この条文だけを読んで 「業務の適正を確保するために必要な体制の整備」が何なのかわかる人はいないですよね。

それもそのはず、その具体的な内容は省令で明らかにされるからです。

多くの人にとっての実務に直結するようなところ(このケースだと社内規定の改訂にも影響しそうです)は法律には書かれてはいなかったりするのですが、新しい法律の案をみて国会で質問する議員の方々もみなさんと同じように思うワケです。

「この「省令で定める」と書かれている部分は何を意味するんだ!これだけじゃあ国民の皆さんに内容が伝わらないじゃないか」と。

その法律の規定からはわからない具体的な内容について、国会の審議で明らかにされることがあるのです。「例えば○○や××を想定している」というふうに。

そういう関係業界の皆さんには重要な情報だけど、世間一般の人にはさほど重要ではないものについては新聞は掘り下げて報道してくれません。そういうわけで、国会審議をリアルタイムで押さえておくことはとても重要なのです。法案の方向性を押さえておくことができれば、他社に先んじて経営戦略を考えることも可能です。

ここからは、法案審議スケジュールを把握する方法、通常予想される国会のスケジュール(法案にも優先順位があるんです)や、国会審議の順番を誰がどうやって決めているのか、また、法案の成立を阻む、逆に成立させるために与野党議員ができること等についてご説明します。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。