「ロブスター」の名誉を守れ

当方は3年前、「“ロブスター”だって痛いさ!」(2018年1月20日)というコラムの中で、スイス政府が施行した動物保護改正に基づき、ロブスターの料理法について書いた。ロブスターの場合、従来は生きたまま熱湯に入れて料理していたが、ロブスターは複雑な神経系を持ち、その痛みは想像を絶しているとして、熱湯料理法は禁止され、料理前に電気ショックで神経を麻痺させるか、包丁で命を絶たなければならなくなった、という情報を紹介した。

新型コロナウイルス(covid-19)オーストリア保健・食品安全局(AGES)公式サイトから

当方はロブスターのロビイストではないが、ロブスターが熱湯で苦しんでいる状況を想像するだけでロブスターに申し訳ない思いが湧いてくる。なぜならば、当方はロブスター料理が忘れられないからだ。40年前、ボストンで初めてロブスターを食べた。レストランでロブスター半分を注文、20ドルを払ったことを記憶している。お皿に運ばれたロブスターを大きなスプーンで中身をほじくりながら食べた。とにかく、美味しかった。米国全土を旅したが、ボストンのロブスター以上のおいしい料理に巡り合わなかった。それ以後、ロブスターと聞けば、ボストンのロブスターを思いだすのだ。

なぜ、突然ロブスターの話になったかというと、海外中国メディア「大紀元」で「中共ウイルス、『起源は米国で獲れるロブスター』中国総領事がツイート」という記事を読んだからだ。中国共産党政権が武漢発“新型コロナウイルス”の起源について、米陸軍の生物兵器研究所説などのフェイクニュースを流し、事件の核心をぼかしていることは周知だが、中国総領事が「コロナウイルスの起源はロブスターだ」とロブスターに濡れ衣を着せたと聞いて、普段は激怒に走ることが少ない当方も「もはや許せない」という正義感が湧いてきたのだ。

ちなみに、世界保健機関(WHO)の武漢調査団は今年2月、武漢視察後の記者会見で武漢ウイルス研究所(WIV)流出説を「その可能性はほとんどない」と否定する一方、「ウイルスが他の動物の宿主を通じてヒトに感染した、ないしは冷凍食品からの感染について今後調査が必要だ」と述べた。WHO調査団のエンバレク団長は後日、「中国共産党は武漢海鮮市場からヒトへの感染説を主張し、WIV漏洩説はその可能性は皆無だという立場を強調した」と説明、中国側から強い圧力があったことを証言している(「WHO調査団長エンバレク氏の証言」2021年8月22日参考)。

コロナウイルスの発生源については、このコラム欄でも数回、報告してきた。最近では「WHO『科学諮問グループ』発足へ」2021年10月16日参考)で「武漢ウイルス研究所」(WIV)流出説が次第に有力となってきていることを報告した。それだけに、中国共産党政権は必死にフェイク情報を流し、事実の解明を妨害してきた。「ロブスター説」はその一つだ。

中国側の情報を「大紀元」から紹介する。「USAトゥデイ22日付によると、英オックスフォード大学の偽情報研究者マルセル・シュリーブス氏は、インド・コルタカ駐在の中国総領事が『2019年11月に武漢の海鮮市場で取引された米国産ロブスターが、新型コロナウイルスの起源の可能性がある』と主張するツイートを発見した。さらに『これらの輸送に携わった多くの人に中共ウイルスの感染が確認された』と投稿していたという。なお、現在このツイートは削除されている。

ロブスターが人間だったならば、自身への容疑を吹っ飛ばすだろうが、それができない。そこでロブスター・ファンの1人としてロブスターへの容疑を晴らしたいのだ。同時に、ロブスターに罪を着せて、自身の蛮行をカムフラージユする中国共産党政権の悪行を暴露しなければならない。

ロブスターの濡れ衣は晴らさなくては Kuvona/iStock 編集部

海鮮市場は約5万平方メートルの広さだ。新型コロナウイルスの発生源と言われていたが、WHO調査団が武漢を訪問した時は市場には人は誰もいなく、中国当局は市場を消毒して全ての痕跡は消されていた。これまでのところ、海鮮市場から感染が始まったという証拠はまったくない。にもかかわらず、よりによってロブスターを新型コロナウイルスの発生源と主張するのは反米プロパガンダ以外の何物でもない。ロブスターに罪を被せた中国総領事は虚偽告訴等罪に該当する犯罪だ。

最後に、コロナウイルスの発生源調査について、バイデン米政権のやる気が9月に入って減少してきているのを感じる。杞憂であることを願う。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。