岸田総理の「新しい資本主義」を読み解く

岸田首相肝いりの「新しい資本主義実現会議」(以下、岸田会議といいます。)が、2021年10月15日閣議決定により設置され、10月26日に初めての会議が開催されました。

新しい資本主義実現本部事務局設置にかかる看板掛けをする岸田首相 首相官邸HPより

それに伴い、菅政権が新設した成長戦略会議はその役目を終え、廃止されました。

新しい会議が政権が変わるごとにつくられ、そして廃止され、何が何だかよくわからない!という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

大きな枠組で考えると、日本の一年間の政策方針を示す骨太の方針の中身を議論する経済財政諮問会議や今回の岸田会議のような首相肝いりの政府の会議は、2000年以降に影響が強くなった官邸主導による政策を実現するための政治サイドの仕掛けの一つです。

各省はそれぞれ所管する政策があり、その政策に責任を持っています。
でも、すべての政策が一つの省庁に収まるとは限りません。時には各省の考える方向性が異なる場合もあります。そんなときにその2省庁だけで議論をしていてはなかなか話が進みません。

経済財政諮問会議や岸田会議は、そのような複数の省庁にまたがる案件や省庁単独では実施できない政策を進めるための舞台装置としての役割を果たすのです。

菅前政権では、経済財政諮問会議と成長戦略会議がその役割を負っていました。

成長戦略会議は、出席する有識者や経済産業大臣といった経済系の閣僚が各省の大臣等に対して個別の政策について検討を求めることで、各省庁だけではなかなか進まない政策を推進するための場として機能していたのです。

菅政権の成長戦略会議の違い

菅政権下では、経済財政諮問会議が大方針を示し、その方針を具体化する場として、成長戦略会議を位置づけていました。

成長戦略会議の開催について(令和2年10月16日 内閣総理大臣決裁)では

「経済財政諮問会議が示す経済財政運営と改革の基本方針等の下、・・・成長戦略会議・・・を開催する。」

としています。

成長戦略会議は経済財政諮問会議(の作成する骨太の方針)の下にあったことが政府文書から明らかです。

菅総理は国の基本方針策定は経済財政諮問会議に一本化しようとしていたことがわかります。

一方の岸田会議はどうなるのでしょうか。

政府文書の上では経済財政諮問会議との明確なすみわけについての言及がありません。

新しい資本主義実現会議の開催について (令和3年10月15日新しい資本主義実現本部決定)
「新しい資本主義実現本部の下、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現していくため、それに向けたビジョンを示し、その具体化を進めるため、新しい資本主義実現会議(以下「会議」という。)を開催する。」

「新しい資本主義実現本部の設置について (令和3年 10 月 15 日 閣 議 決 定)
「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現していくため、内閣に、新しい資本主義実現本部(以 下「本部」という。)を設置する」

が、記者会見で山際大臣からこんな発言がありました。

「来年の骨太方針に盛り込むということは、一つ、当然我々としては頭に置いてある時間的なゴールですが、それだけで終わるとも思っていません。例えば、この緊急提言はそうでしょうし、その後にも更に打ち出さなければいけないことが出てくれば、・・・御報告もしたいと思います。」

まだ、あまり情報が出ていない中、発信されている情報だけを踏まえると、
・岸田会議の議論の内容は骨太の方針に含まれる。
・岸田会議は補正予算を視野に入れた緊急提言や機動的に打ち出す事項を議論する。

ことが見込まれています。

菅政権下では経済財政諮問会議が成長戦略の方針を示し、成長戦略会議がその具体化を行うという上下関係がありました。

一方、安倍政権下では、経済財政諮問会議と成長戦略会議の前身に当たる未来投資会議(の上部会議である日本経済再生本部)は上下関係ではなく、対等な関係だったという特徴があります。
端的に言うと、成長戦略部分は未来投資会議が、それ以外は経済財政諮問会議が議論とすみわけがされていました。

岸田首相の成長戦略は菅型か安倍型かどちらなのでしょうか。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。