11月12日の拙稿「『アルムナイ』を活用し、大企業はパナソニックの希望退職に続け」では、予想外の反響をいただきました。
今回は、続編として、現在硬直的な日本の労働法制の中で唯一会社側に許された人財流動化の手段である「希望退職」について、その会社にとっても、社員にとっても、会社にとってもパッピーであるような実施方法はないのかという問題を考察していきます。
さて、「希望退職」を行うと、現在の日本では、
- ①「〇〇社もついにそこまで追い込まれたのか」(企業のイメージの悪化)
- ②「社員が可哀そう」(人道的な批判」
- ③「非人間的な制度だ」(労働法制への疑問)
という論調で、とにかくメディア上では「ネガティブ」に扱われます。
しかし、こんなことで本当に良いのでしょうか?
ちょっと上記①~③について論理的に考えてみましょう。
①:パナソニックにしろ、ホンダにしろ、業績は赤字でもないので破綻の前兆のようなネガティブなものではありません。2社が意図したのは、「構造改革」のための「選択と集中」、即ちパナソニックであれば既にコモディティ化した家電製品主体の事業構造からの脱却であり、ホンダであれば完全に自動車業界における主流となるEV化への舵取りという改革のための人事政策です。
②:もちろん「希望」と謳いながら、半強制的に「希望させる」ことは論外であり、コンプライアンス的に、日本を代表するような大企業がそのようなことをするということは考えにくいでしょう。また「希望」なのだから、選択権は社員にあり、転職が嫌なら希望退職に応じなければ良いわけです。応じるのは、「もうその会社にはいたくない人」「いづらくなった人」であり、転職した方が良いケースが多いのでしょう。問題は、転職後に転職しなかったときよりもアンハッピーになった場合のことです(この点は後述します)。
③:日本では先進他国に比べて会社都合の解雇については極めてハードルの高い法体系となっており、今以上に労働者保護に法律改正をするなど、グローバルな競争という厳しい現実の中では考えられないことです。
さて、上記3つの立場で考えてみて、「一体どこがネガティブなんだよ」と私が経営者ならグチの一つも言いたいところです。しかも希望退職で支払われる割増退職金は通常の退職金の何倍もの金額となっているのです。
では、それでも一体何が問題なのか、それは転職後の会社で「上手くいかない」と言うイメージがあるからです。
私自身10回の転職経験があり、その体験からの結論は、
- 企業DNAは千差万別であり、ギャップを感じたり精神的にストレスであるのは間違いない
- 特に大企業ほど中途採用者が居場所を自分で作っていくのは大変であり、通常すんなり転職後の企業になじんでいくのは簡単ではない
- 企業内でも、まだ転職組はマイナーであり、出世していくのは転職組ではないプロパー組が中心である
ということは認めます。
しかしながら、「だから転職は上手くいかない」と断言したのでは、日本の産業界も進歩しないのではないかと思います。
上記3つのありがちな問題点については、企業が本当に希望退職を人財流動化の有力なツールにするためには企業サイド自ら、「変えていけば良い」のではないですか?
転職者を受け入れる企業それぞれ企業文化や経営トップのHRに関する意識改革促進などが必要なのでしょう。
ただ、そうしたことについての企業の経営トップの認識はまだまだ高くはないのが実情かと思います。
そういう状況の中、私は企業内の転職、中途採用に関する意識改革、企業文化の変更についての一つの起爆剤としていくつかのことを提案したいと思います。
「希望退職」を産業界として、ポジティブなものとしてスタートしたいのなら、転職者がハッピーとなれる環境づくりを皆でしようよ、ということです。
そのためには、産業界(財界)をあげて、転職、希望退職ということについて正面から向き合い、三方良し(企業、社員、社会)になる仕組み作り、メディア対応を進めることが重要だと思います。
とりわけ、時には希望退職で社員を送り出すこともあるだろうし、希望退職をした方を受け入れる側にもなる企業のトップの意識の変革、そしてトップとしての社内外に対するコミットメントが必要なのだと思います。
社内外へのアナウンスメントに加え、
- 前回投稿した「アルムナイ」をどの会社も結成して、希望退職で上手くいかなかった社員を呼び戻すことを普通にする
- 転職受入れでの社内体制を構築するために研修会などの教育機会を設ける
- キャリア形成についての教育(研修)を若いころから実施し、転職に関する心構え、ナレッジを社員に身につけてもらう
なども有効なのだと思います。