米11月CPI、39年ぶりの上昇率もバイデン氏は頭打ちを示唆

米11月消費者物価指数(CPI)は前月比0.8%上昇し、市場予想の0.7%を上回った。とはいえ、2008年6月以来の高い伸びだった6月と9月の0.9%以下となった。オミクロン株の確認を受け、ガソリンなど一部のエネルギーの伸びが下落したほか、暖冬を受け天然ガス価格が急落した結果、エネルギーや電力・ガスの伸びが前月以下にとどまった。また、食費も前月を下回る伸びにとどまった。ただし、新型コロナウイルス感染者がピークアウトするなか、経済活動再開の恩恵を受け、航空運賃や服飾など一部の費目が再び上昇に反転。半導体不足を受け中古車なども、物価を押し上げた。

バイデン大統領 ホワイトハウス公式サイトより

内訳を前月比でみると、エネルギー(全体の7.3%を占める)が5.9%と前月の6.2%以下となった。ガソリンは同6.1%と、前月と変わらず。なおエネルギー情報局(EIA)によると、ガソリン価格は11月8日週に一時3.410ドルと、2014年9月以来の高値をつけたが、月末には3.341ドルまで下落し、ピークアウトの兆しをみせた。その他のエネルギーでは、電力など公益が0.3%と、2008年7月以来の高水準だった前月の3.0%から大幅鈍化した。そのうち電力が0.3%と5ヵ月連続で上昇しつつも2014年5月以来の高水準だった前月の1.8%の3分の1の伸びにとどまったほか、ガスも0.6%と2000年6月以来の高い伸びとなった前月の6.6%から急減速した。

エネルギー以外では食品・飲料(全体の14.9を占める)が0.8%上昇、2008年6月以来の力強さをみせた前月の0.9%以下にとどまった。引き続き肉類・卵・魚が上昇を牽引しつつも、同0.9%と前月の1.7%を下回った。外食もデルタ株感染が拡大するなかで同0.6%と前月の0.8%以下となり、米11月雇用統計で外食が含まれる娯楽・宿泊の平均時給の伸び鈍化と整合的である。

CPIコアは前月比0.5%上昇し、市場予想と一致した。前月の0.6%を下回り、前月比では1982年6月以来の伸びへ加速した6月の0.9%以下が続く。

チャート:CPIの費目別寄与、前月比

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(作成:My Big Apple NY)

食品とエネルギー以外をみると、コロナ感染者数のピークアウトを受け、経済正常化で恩恵を受ける費目の一部が上昇した。特に顕著となったのは航空運賃で、感謝祭を含んだため5ヵ月ぶりに上昇に転じた。服飾も、前月の横ばいから上昇に反転。宿泊は2ヵ月連続で上昇した。その他、半導体不足に伴う減産を受け新車が高止まりを続けただけでなく、中古車が2ヵ月連続で大幅上昇した。CPIの23.6%を占める帰属家賃は、2016年9月以来の高い伸びを維持。家賃も、立ち退き猶予期間の撤廃も重なり1992年10月以来の上昇率を記録に並ぶ。一方で、自動車保険は2ヵ月連続で下落したほか、娯楽は7ヵ月ぶりにマイナスとなった。エネルギー関連と食品・飲料以外で主な項目の前月比は、以下の通り。

(上昇費目)

・航空運賃 4.7%の上昇、5ヵ月ぶりにプラス>前月は0.7%の低下
・中古車 2.5%の上昇、2ヵ月連続でプラス=前月2.5%の上昇
・服飾 1.3%の上昇>前月は横ばい

・新車 1.1%の上昇、8ヵ月連続でプラス<前月は1.4%の上昇
・宿泊 2.9%の上昇、2ヵ月連続でプラスとなり5ヵ月ぶりの高い伸び>前月は1.4%の上昇
・住宅 0.5%の上昇、上昇トレンドを維持=前月は0.5%の上昇

・家賃 0.5%の上昇、プラスのトレンドを維持し1992年10月以来の高い伸びに並ぶ>前月は0.4%上昇
・帰属家賃 0.4%の上昇、上昇トレンドを維持し16年9月以来の高い伸びを維持=前月は0.4%の上昇
・医療サービス 0.3%の上昇、2ヵ月連続でプラス<前月は0.5%の上昇

(横ばい、低下項目)

・教育 横ばい<前月は0.2%の上昇、7ヵ月連続でプラス
・娯楽 0.2%の下落、10ヵ月ぶりにマイナス<前月は0.7%の上昇
・自動車保険 0.8%の下落<前月は横ばい

CPIは前年比で6.8%上昇し、市場予想と一致した。1982年6月以来の上昇率となる。CPIコアは同4.9%上昇し、市場予想と並んだ。前月の4.8%を超え、1991年6月以来の高い伸びを記録した。

チャート:CPIの前年比、費目別の寄与など

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:CPIとCPIコア、前年比

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(作成:My Big Apple NY)

――米11月CPIは航空運賃や服飾が押し上げ、帰属家賃など高止まりするとはいえ、オミクロン株の確認を受けてエネルギーが鈍化した上、食品も前月以下にとどまり、物価高にピークアウトの兆しが見えてきました。

とはいえ、米12月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値は70.4と前月を上回ったとはいえ、約10年ぶりの低水準近くを維持しています。コロナ前や前年比での物価動向が引き続き高止まりしているためです。

チャート:経済活動の再開で4~6月に上振れした費目、20年2月からみた上昇率

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(作成:My Big Apple NY)

CPIの14.9%を占める食費は、供給網の制約を受け肉・魚・卵を始め記録的な伸びを保ち、家計に重く圧し掛かります。

チャート:食費の費目全てが20年2月から右肩上がりを継続

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(作成:My Big Apple NY)

7.3%を占めるエネルギーを始め、前述の生活必需品の費目も高止まりしています。天然ガスは暖冬の見通しを受け急落中ですが、明確に鈍化しない限り、消費者マインドを押し上げそうにありません。

チャート:食費に加え生活必需品のガソリン、電力・ガス料金のほか、家賃も家計を圧迫

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(作成:My Big Apple NY)

物価の高止まりは、実質賃金を押し下げ続けており消費者マインドを冷やしています。11月の実質平均時給は前年同月比1.2%下落し、8ヵ月連続でマイナスだっただけでなく前月から下げ幅を拡大しました。

チャート:実質賃金の下落に加え、生活必需品のインフレ加速で裁量消費余地が狭まる

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(作成:My Big Apple NY)

パウエルFRB議長は、11月の議会証言でインフレは一時的との見解を撤回する構えを表明しました。11月FOMC議事要旨と合わせ、12月FOMCでテーパリングの加速を表明すること必至。インフレの高止まりを受け、Fedが物価抑制を主軸に舵を切った証左です。一方で、インフレ加速とガソリン価格の急騰を背景に支持率低下に直面するバイデン大統領は、米CPI発表時に「(インフレ上昇の)危機はピークアウトしたようにみえる」と発言しました。ガソリン価格も、20州で頭打ちした過去20年平均を下回ったと言及しています。

足元、スタグフレーションに見舞われた1970年代後半との類似点を指摘する声が大きいですよね。当時のカーター政権下でFRB議長に就任したボルカー氏は積極的な利上げでインフレを退治したことで知られますが、同時に景気後退を招きました。バイデン氏のメッセージが、利上げへ向かうFedへのけん制に聞こえるのは、筆者だけでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年12月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。