今年もクリスマスがやってきた。日本では、ハロウィンにイベントデーとしての地位を奪われつつあるが、未だ多くの人が予定、子供はプレゼントに色めく。クリスマスとは本来クリスチャンの祭典であるが、当のクリスチャンの中には社会経済的な苦境により満足に祝福できない集団もいる。
その最たる例が、マイノリティのクリスチャンである。キリスト教は中東発祥だが、その後、イスラムが席巻したことで孤立した少数派となった。クリスチャンが多いシリアでは、内戦により反体制派占領地域でクリスチャンに人頭税が課されるなど弾圧にさらされ、クリスマスを公然と祝えない状況もあった。同じくクリスチャンが多いイラクでも、イスラム国が台頭し居住地が占領され、多くのクリスチャン住民が悲惨な目にあい、当然、クリスマスなど隠れキリシタンのように祝うしかなかった。
マイノリティのクリスチャンは数あれど、本稿では、実際に出会ったパキスタンのクリスチャンについてお伝えしたい。
パキスタンといえば南アジアのムスリム大国であるが、一定数のクリスチャンが居住する。バローチスタンとは、印パ分離独立による建国以来、民族紛争が絶えない地域であり、最近では「一帯一路」中国の進出がめざましく、それに伴い現地人とのトラブルも頻発し中国人襲撃事件も起きている。
筆者は一帯一路を巡る問題を取材する中で、少数民族バローチ人の中の更なる少数派であるクリスチャンに出会った。中でもその権利向上に取り組む活動家・アシフ・ジョン氏は、多くのことを教えてくれた。ジョン氏が住む地域は、州都クエッタ内にある一種のゲートコミュニティである。
クエッタでは、クリスチャンに限らずマイノリティを狙ったテロ攻撃が相次いでいる。クエッタには、アフガニスタンから逃れたモンゴル系でシーアのハザラ人が多く居住し、彼らの居住区では度々爆弾テロが発生している。それゆえ、多数のクリスチャンが高い塀に覆われた区画に住むことを余儀なくされている。
バローチスタンには多数のイスラム国のテロリストが潜伏していると推測されている。実際、筆者が現地を訪れていた時期にも、イスラム国が自爆テロの犯行声明を出したと報じられた。ジョン氏も講演活動などを通じ名を知られたことで、イスラム国につけ狙わていると話していた。
それでも、ジョン氏によればバローチスタンのクリスチャンは、パキスタンの他の地域のクリスチャンと比べると状況はマシだという。というのも、バローチ人のムスリムは、一般的なパキスタンのムスリムと比べ、宗教的ではないからである。ただ、アフガニスタンと国境を接する州であるが故に、アフガニスタンの多数派民族、パシュトゥン人が多く、彼らには狙われることが多いということだ。そして、タリバンがアフガニスタンで権力を握ったことで、バローチスタンにも多くの難民が押し寄せたというが、幸いにも大きな問題は起きていないということだ。
経済的な苦境も深刻だ。アジア開発銀行によれば、2015年のパキスタンにおける貧困率は約24%と、多くの人々が貧困に喘いでいることは有名であり、行く先々で日本での仕事を紹介してくれとせがまれる。
バローチスタンは豊富な資源を有する一方で、それらを進出した中国に吸い上げられ、富を享受できていない現状がある。マイノリティであるクリスチャンは、社会経済的に疎外されやすく、貧困に陥りやすい。クリスチャンはバローチスタンにゆかりが深い、あるパキスタンの専門家からも、出会ったクリスチャンの多くが生きることに絶望していたと聞いた。
こうした中でも、クリスチャンたちはクリスマスを祝うということだ。筆者がオンラインで取材した時点では、準備が進められており、前段階としてチャリティーイベントが実施されていた。
クリスチャンのみならず、世界では多くの少数民族・宗派が、主に権威主義国家の弾圧を受けている。中国国内のウイグル、チベット、またクリスチャン…トルコではクルドなど、枚挙にいとまがない。中国などの権威主義勢力の伸長と民主主義勢力の後退と共に、来年も少数派の苦しみが世界に溢れることを懸念せずにはいられない。
かつての軽薄な熱狂が薄れつつあるクリスマス。こうした問題に思いをはせる機会にしてもいいのかもしれない。
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並木 宜史
ジャーナリスト。1992年、東京都生まれ。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の現地取材を続ける。6月22日放送、NHK ETV特集「バリバイ一家の願い~