コロナ陽性者数は急増するが、経済を止める必要があるのか?

JRのとある駅前でPCR無料検査が行われていた。本来あるべき姿がようやく実現されたことで、前の政権とは変わってきたと実感した。このこと自体は高く評価できることだ。しかし、市中感染はすでに広がっているので、無症状者と軽症者の発見数が増え、感染陽性者数はある程度まで増えると推測される。これまでのような濃厚接触者の追跡もいずれ不可能となる。接触アプリも不発だし、デジタル化の遅れは改善されていない。ワクチン接種証明書も、3週間前に受けた3回目の接種記録は表示されないお粗末さだ。

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感染者はどこまで増えるのか、医療逼迫は起きるのかを科学的に分析しつつ、コロナ対策と経済対策を練っていく必要に迫られている。分科会会長は無責任に「帰省や旅行を慎重に」と言っているが、控えて欲しいのか、慎重に行動して帰省してもいいのか曖昧だ。責任は取らない姿勢は変わらない。観光業界や飲食業界は限界に近いと思う。私の行きつけの飲食店で、閉店した店も少なくない。

オミクロン株が主流となってくるのは確実だ。オミクロン株は、上気道でのウイルス数が70倍と報告されていることやブレークスルー感染が起こること、感染率が4倍以上高いため、急拡大が起こり、第5波を上回る波が来ると警鐘が鳴らされている。しかし、ウイルスの性質もわかってきており、どの程度の行動制限が必要かを、ワクチン接種率や日本人の免疫の特性を考慮しつつ判断するのが、本当の専門家ではないのか?

私は、この大きな第6波が来る予測には懐疑的だ。いくつか理由はある。抗体量が減ってきていることや抗体がうまく働かないのでブレークスルー感染が起こると言われている。それは事実だろうが、一言で抗体と言うが、ワクチン接種によって体内にできている抗体は1種類ではない。多価抗体で、いろいろな部分に対する複数の抗体ができている。また、感染した場合の免疫細胞の応答は、速やかに起こるはずだ。

ただし、すでに承認されている抗体医薬は効果がないようだが、それは抗体がオミクロン株のスパイクタンパク質とかみ合わせが悪くなっているからだ。抗体と抗原は鍵と鍵穴の関係に近く。鍵が変われば、鍵穴にフィットせず、鍵は開かない。抗体がスパイクタンパクのどの部分に結合するかがわかっていれば(わかっているはずだ)、オミクロン株に効果があるかどうかは、簡単に判断できるはずだし、実験でも明らかになっているようだ。

そして重要なのが、ワクチン接種によってできるスパイクタンパクに対する抗体そのものやそれらの量は、個人個人で大きく異なることだ。4倍かかりやすいウイルスでも、感染予防効果は残っており、重症化率もかなり低い。重症化率が10%になっても、陽性患者数が10倍になると、第5波と同じような状況になると主張する声も多い。

しかし、何度も言うが、ワクチン接種が進んだ日本だけでなく、東南アジアのワクチン接収が進んでいない国での感染症陽性患者数の激減が起こったのだ。そして、陽性者が少ない数字が維持されていることに対する科学的な考察が不可欠だ。コロナウイルス感染症は突発的に出現したものではない。

COVID-19という新しいウイルス株が比較的重症化率が高いために世界的な流行という危機につながったが、オミクロン株は全く別のコロナウイルス株と考える方がわかりやすいと思う。致死率では、季節性のインフルエンザに近くなってきている。ここで何度も述べているが、細胞免疫を評価しない今の方法では、急減した理由や中東諸国での致死率の低さなど、科学的な解明は進まないだろう。さらに、経口治療薬が承認されれば、状況は一変するし、それが起こりつつある。

1月末に大きな第6波が来れば、私の科学的思考力も歳を取って枯れ果てたと判断せざるを得ない。近くない将来に引退するのでどうでもいいことだが。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。