米12月求人数は増加、有効求人倍率は過去最高で賃上げ圧力の継続へ

2021年は、米国の歴史に「大離職時代=Great Resignationの幕開け」と刻まれるに違いありません。以下、米12月雇用動態調査をおさらいしていきます。

米労働省が発表した米12月雇用動態調査(JOLTS)によると、求人数は1,093万人と過去最多を更新した前月の1,109万人(修正値)を1.4%上回った。過去5ヵ月間で2回目の増加となる。求人数は8ヵ月連続で失業者数を上回った。

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チャート:求人数と失業者数の推移

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(作成:My Big Apple NY)

採用数は前月比5.0%減の626万人だった。過去6カ月間で4回目の減少を迎え、過去最高を更新した21年6月の683万人から遠ざかった。

離職者数は590万人と、前月の620.1万人(修正値)を4.9%下回り減少に転じた。離職者数を押し下げたのは解雇者数で前月比10.7%減の117万人と過去最低を記録した。一方で、定年や自己都合による自発的離職者も同3.6%減の434万人だったが、前月は過去最多を更新していた。

雇用者数に占める求人数を表す求人率は6.8%と、過去最高に並んだ。採用率は4.2%と前月の4.4%を下回り21年6月につけた過去最高の4.7%から遠のいた。

チャート:求人数は増加し採用数は減少した結果、前者が後者を466万人上回り過去最大に

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(作成:My Big Apple NY)

自発的および引退、解雇などを含めた離職率は4.0%と、前月の4.2%を下回った。自発的離職率は2.9%と過去最高をつけた前月の3.0%を下回った。解雇率は前月まで4ヵ月連続での0.9%を経て0.8%と、統計開始以来で最低を更新した。

チャート:自発的離職者数、引き続き離職者数を押し上げ。

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(作成:My Big Apple NY)

自発的離職率は2.9%と、前月の過去最高から低下したように業種別でも低下が優勢。今回上昇したのは小売、その他サービス、製造業の3業種のみとなった。

チャート:自発的離職率

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(作成:My Big Apple NY)

求人数の高止まりの割りに採用者数が伸びなかったものの、失業者が減少を続けたため、有効求人倍率は2.72倍と3ヵ月連続で上昇し過去最高を更新した。自発的離職率を背景に右肩上がりが続いており、賃上げ圧力の長期化を示唆する結果といえよう。

チャート:有効求人倍率、求人数の急増を受け指数関数的に上昇。

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(作成:My Big Apple NY)

――オミクロン株の感染拡大を受けながら自発的離職者数は減少したのは明るいニュースでしたが、12月は求人数が失業者数を過去最大の460万人上回り、人手不足の状況を確認しました。売り手市場の証左とあれば、有効求人倍率の急上昇と合わせ、賃上げ圧力の継続を意味します。採用数の減少が気掛かりですが、人材のミスマッチと優秀な人材の競争激化で結局のところ、賃上げ圧力を高めかねません。自発的離職者数の減少は、オミクロン株の感染拡大と年末要因から離職を踏みとどまった可能性を残します。

以上を勘案すると、仮に米1月雇用統計・非農業部門就労者数の伸びが大幅鈍化あるいは減少したとしても賃上げ圧力は残存し、企業収益を圧迫しうる。同時に、貯蓄率がコロナ前の水準まで低下する米家計の財布の状況を踏まえれば、2021年上半期のような快進撃は望めず、スタグフレーションのリスクが忍び寄ってきたと言えそうです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年2月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。