オミクロン株では、なぜ重症者がいない県で死亡者が発生するのか?

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山梨県では、新型コロナ重症者がゼロなのに、死亡者が6人発生したと報道されました。この現象に疑問を感じている人が多いようです。今回は、この謎を解明してみたいと思います。この謎を解く鍵は、オミクロン株の特性です。オミクロン株では、デルタ株と比べて、ウイルスの特性が大きく変化したことを理解しないと、この謎は解けません。

現在の死亡者のカウントは、厚労省の指示により、「新型コロナ感染者が療養中・入院中に亡くなった場合は、厳密な死因を問わず、すべて報告すること」となっています。

死亡報告は、具体的には次の4つに分類できます。

  1. 新型コロナにより間質性肺炎で死亡した。
  2. 新型コロナにより持病が悪化して、あるいは致死性疾患が誘発されて死亡した。
  3. 持病の悪化あるいは交通事故などで全身状態が悪い時に、新型コロナに感染して死亡した。
  4. 新型コロナに感染した人が、交通事故などで全身状態が悪化し、その後死亡した。
  • 新型コロナ直接死=A
  • 新型コロナ間接死=B+C+D
  • 新型コロナ関連死=直接死+間接死

直接死、間接死という用語はあまり一般的ではありませんが、今回の現象を説明するには都合がよいため、以後の説明で使用することにします。

オミクロン株では、肺炎は少なくなり、持病が悪化して入院することが多くなりました。また、デルタ株に比べて、重症化率が低下したとされています。実は、この重症の定義が曲者なのです。

この重症度分類は、アルファ株、デルタ株に対して作られました。肺炎を重視した分類であるため、肺炎の少ないオミクロン株には適切な分類ではありません。つまり、肺炎がないため新型コロナの重症度分類では重症ではないが、他の臓器の状態は悪化しているため実質的には重症ということがあり得るのです。そのような場合は、重症者ゼロなのに死亡者が発生ということが生じてしまいます。

次に、新型コロナに致死性疾患が誘発されて死亡する場合を考えてみます。

インフルエンザと心筋梗塞の関係については既に研究されています。研究によると、「インフルエンザと診断されて7日以内は心筋梗塞になるリスクが6倍」と報告されています。コロナでは感染により血栓が生じやすくなることが報告されていますので、新型コロナ感染後に、心筋梗塞発病の確率が上昇したとしても不思議ではありません。調べたところ、「新型コロナは、心筋梗塞と虚血性脳卒中のリスクファクターである」とする論文が既に発表されていました。新型コロナ感染直後に心筋梗塞が誘発されて死亡すれば、重症者ゼロでも死亡者が発生したことになるわけです。

新型コロナ感染直後に心筋梗塞で死亡した時は、死因をどちらにするべきかという問題があります。通常は死因を心筋梗塞としますが、引き金となったのは新型コロナであり関連死とみなすことができます。ただし、これは可能性の話であり、心筋梗塞の発症に新型コロナが、個々の症例でどの程度関与したかを推測することは困難です。デルタ株の時も、このような間接死は存在していたと考えられます。ただ、直接死の方が多かったため、間接死は目立たなかったのだと推測されます。

個々の症例で死亡への関与の程度を推測することが困難であるならば、後は統計的に推測するしかありません。インフルエンザ関連死の場合は、超過死亡より推定しました。ところが、2020年の超過死亡数はマイナスとなり、2021年はそこに、接種後死亡者や医療圧迫死の問題が加わり、分析が非常に難しくなってしまいました。したがって、新型コロナ関連死亡数を把握するために、「厚労省が、厳密な死因を問わずすべて報告するように指示したこと」は、適切であったと私は考えます。

現在報告されている死亡者の中に、新型コロナと無関係な死亡者が含まれている可能性は否定できません。一方、完全に無関係と断定することは多くの場合困難であることも事実です。したがって、当面は現在の死亡者を、新型コロナ関連死亡者とみなしていくしかないと考えられます。どこまでを関連死とするかは今後の課題と言えます。

インフルエンザ関連死は、年間約1万人です。一方、インフルエンザ直接死は、人口動態統計より約3200人(2017年~2019年)です。間接死は約6800人となり、直接死の約2倍です。オミクロン株でも、直接死より間接死の方が多いと推測されます。したがって、オミクロン株関連死を把握しておくことは非常に重要なことなのです。また、致死率のデータを見る時には、直接死の致死率なのか、関連死の致死率なのか確認する必要があります。

CとDにも少し言及しておきます。

全身状態が悪い時に、新型コロナに感染すると、全身状態が更に悪化し多臓器不全で死亡してしまうことがあります。これは、インフルエンザや他の病原体による感染症でも、同じことが言えます。抵抗力が低下している時は、健康な人なら問題のない弱毒性の病原体による感染症でも、死に至ってしまうことがあるわけです。60歳未満で基礎疾患がなければオミクロン株に感染しても死亡リスクは非常に低いですが、感染後に交通事故にあい全身状態が悪化すれば、死亡リスクは格段に上昇してしまうのです。

国民が知りたいことは何か?

国民は、厳密な意味のコロナ死亡数(直接死)を知りたいわけではありません。国民が知りたいのは、新型コロナの流行で、死者が何人増加したかということです。死亡のメカニズムは、問題ではありません。直接死であろうと間接死であろうと、家族にとっては同じ死です。

国民が知りたいのは、新型コロナ関連死者数(直接死+間接死)なのです。したがって、現在のコロナ死の報告方法が間違っているとは、私は思いません。ただし、学問的には新型コロナ関連死と同時に新型コロナ直接死も集計される方が望ましいことは確かです。

【以前の解説の訂正】
以前の解説で、コロナ関連死をB+C+Dとしていました。インフルエンザ関連死は年間1万人とする場合には、この中にインフルエンザ死も含まれています。したがって、コロナ関連死はA+B+C+Dとするべきでした。