魂と「ゴースト粒子」の質量の話

ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT)にある「トリチウムニュートリノ実験」(通称Katrin=カトリン)が「素粒子の1つである反電子ニュートリノの質量が0.9電子ボルト(eV)以下であることを明らかにした」というニュースが飛び込んできた。

「トリチウムニュートリノ実験」のメイン分光計の内部(カールスルーエ工科大学公式サイトから)

Katrin実験のセットアップの概略図(同)

このコラム欄で「人間の魂」の重さが2.5グラムという話を紹介したことがある。1915年、人間の魂の重量は22.4グラムであると発表されたが、米国の科学者が1990年末、さらに精密に魂の重さを量ることに成功し、死後の体重は生前より2.5~6.5グラム減少したことが分かったという。すなわち、肉体の死を迎えた魂が死後、その肉体から抜けていって永遠の世界に移ったので、その人の体重が2.5から6.5グラム軽くなったことから、魂の質量が測量されたわけだ(「人間の『魂』の重さは2.5グラム」2019年4月2日参考)。

ところで、物理学で「ゴースト粒子」(die Geisterteilchender Physik)とも呼ばれるニュートリノの質量を測量していた科学者がジャーナル「Nature Physics」で報告したところによると、反電子ニュートリノの有効質量が0.9電子ボルト以下であることを示すことができた、として専門家たちから高く評価されている。今回の成果はドイツのKITにある長さ70メートルのカトリンの検出結果だ。

魂の重さは「グラム」の単位だったが、質量が小さく、“幽霊の粒子”と呼ばれ、測量することが難しかったニュートリノの場合、単位はグラムではなく、電子ボルト(eV)だ。ニュートリノは電気的に中性の素粒子であり、宇宙の形成に重要な役割を果たしたと考えられている。それらは太陽の核融合の間に放出され、原子核の放射性崩壊と宇宙での超新星爆発の際にも役割を果たしたと考えられている。

オーストリアのヴォルフガング・パウリ(1900~58年)が1930年、ニュートリノの存在を初めて指摘した。パウリはノーベル物理学賞を受賞している。原子核の崩壊中、中性子と電子の測定データが物理学の「エネルギー保存の法則」に適合しなかったことから「何かある」と直感したという。

当方がニュートリノに強く関心を持つのは、ニュートリノが至る所に偏在し、宇宙で最も一般的な素粒子であり、環境とは相互作用せず、人間の人体だけではなく、地球も通り抜けていくからだ。まさに、ニュートリノは幽霊と呼ばれる資格を有しているのだ。

ニュートリノがゴルゴダの丘で十字架に架かったイエスの体を通過し、2000年後、同じニュートリノが当方の体を通過したかもしれない。当方が突然、イエスの生涯に思いをはせたのは、イエスの人体を通過したニュートリノが当方の体の中を通り過ぎたからかもしれない。ひょっとしたら、人類の始祖アダムとエバが蛇の誘惑に負けて「エデンの園」から追放された瞬間を目撃していたニュートリノが21世紀の世界を通過しているかもしれない。「歴史は繰り返す」と喝破した歴史学者がいたが、それはニュートリノの業かも知れない、といった妄想が次から次へと湧いてくる。

スウェーデンの国民作家と呼ばれるヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(1849~1912年)は霊魂をキャッチするためにガラス瓶をもって墓場に行ったという。一方、KITの学者たちは幽霊粒子と呼ばれているニュートリノをキャッチするためにガラス瓶ではなく、トリチウムの崩壊中のエネルギー分布を真空中で測定できる施設を構築して検出しようとしているわけだ。

KITのカトリンは2024年末まで検出システムを改良する予定で、25年からはステライルニュートリノ(仮説上のニュートリノ)の探索に向かうという。ステライルニュートリノは宇宙全土に広がる暗黒物質ではないかとも考えられている。

直径100ナノメートルの大きさのコロナウイルスに人類は過去2年半以上、悩まされてきた。ウイルスは肉眼では見えないが、電子顕微鏡などを利用すればその姿を現す。その性格、特徴は感染した人間の症状を診断することで理解できる。同じように、ニュートリノの場合も不可視だが、人間の歴史を探索することで、ビッグバーン以来、宇宙を覆い、偏在してきたニュートリノの痕跡、特質が発見できるのではないか。これはあくまでも当方の願いだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。