働き方改革と二地域居住の可能性を考える

五十嵐 直敬

都市の脆弱性と人材難産業の解決策として

大都市特に東京一極集中が進み、通勤は「痛勤」とすら言われる。

そこに新型コロナが来襲、マスコミが喧伝しSNSなどネットは半ばデマ化し中世ペストやコレラのような騒ぎとなった。都市は利便性は高いが感染症流行等の災害には弱い。

一方で二地域居住とテレワークの折衷なワーケーションが注目されてきた。二地域居住は大都市圏の問題と個人のゆとりある生活の両面を解決し、まさに働き方改革となり得る。筆者の経験も踏まえ考えてみたい。

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「出稼ぎ介護施設長」経験

筆者は8年ほど前、神奈川県相模原市と千葉県南房総市(外房側)での「二地域居住・出稼ぎ介護施設長」を経験した。知人が理事長の法人で、週二回ほど高速道路片道約140Kmを往復し現地泊で認知症グループホームとデイサービスを持つ施設の運営管理を行ったのである。宿舎は知人の旧住居の2LDKの海辺のリゾートマンションだった。

筆者は介護職養成講師を兼務し週1〜2日の授業があった。知人は「多く居てくれれば助かるし給料も増える」と日給制ながら社保加入、正職員扱いとしてくれた。外房3,4日程度と相模原2,3日程度のサイクルでの「二地域勤務」、相模原から外房までは通常4時間近くかかったが、夜明け前後にベイブリッジを通過し眺めを楽しみながらの遠征だった。

現地は超高齢化を先取りし高齢化率40%を超える過疎の町、日中は若い人は町中に居らず閑散としている。しかし半農半漁の生産地域、食材は新鮮で豊かで安く、多くは無い飲食店も美味しく安く、宿舎はオーシャンビューで足を延ばせば道の駅や名所もある。運が良いと獲れ立てのマンボウが手に入り刺身で足らず鍋にして楽しめたし、山向こうの館山は江戸前寿司が安くて美味い通人垂涎の街、実に豊かな生活だった。

その後南房総市ではいくつか、二地域居住やワーケーション受け入れの試みがあるようだ。

二地域居住のパターン

二地域居住にはいくつかのパターンがあり得る。

  1. 仕事が単一、都市部で仕事し休日は地方。
  2. 仕事が単一、地方で仕事、休日は都市部に在住。
  3. 仕事が複数、都市部と地方それぞれにある。

1.はサラリーマン等やアウトドア志向者であり得るケース。2.は元々都市部在住者が地方にスキル提供する場合。3.はスキルある人がフリーランス的に活動する、あるいは地方在住者が農閑期等に都市部に出稼ぎする場合。

筆者は2.あるいは3.に近いパターンと言える。これに家族の居住地がどちらかでバリエーションが生じる。高等教育に有利な都市部に家族が居住、逆に自然豊かで安全性が高い地方で育児等である。

二地域居住実現の問題点

① 住居
当然二つの住居が必要になる。地方は都市部より家賃が安いが、家賃負担増が経済的負担となる。またマッチングも必要になる。

② 移動交通
通常の通勤の他に比較的遠距離移動するための交通費負担が発生する。移動時間も負担になる。地方は公共交通が十分ではなく生活圏が広いため、車が必需であることも多い。

③ 地域コミュニティとの関係性
地方特に過疎地では地縁血縁が強く外来者が馴染めない場合もあると聞く。自治会活動、ゴミ捨て場管理等、地域コミュニティとの関係性を良好にする必要性がある。

④ 雇用
地方を働く場とする場合、雇用が少ないことが問題になり得る。また雇用提供量や産業構造から、希望する仕事にマッチできないおそれがある。

⑤ マッチング
出身地へのUターンではない場合、受け入れ地域や住居、支援策の情報、知らない土地とのマッチングの機会やシステムが必要になる。これは現地雇用やボランティア等活動も併せて考える必要がある。

考察1:二地域居住の物理的問題の解決

二地域居住は都市部住民には働き方改革や地方での豊かな生活、地方住民には雇用の多い都市での就業、都市には過剰な人口の分散、地方には人口流入による経済産業活性化等、それぞれにメリットがある。

住居については企業が社員への福利厚生の一環として家賃補助、地方自治体が二地域居住推進・人口呼び込みのため家賃補助や空き家活用等の施策があれば解決でき、良質な住居の整備と斡旋、マッチングが重要になる。

交通費は雇用側か自治体側が補助等すれば解決し、生産性が向上または居住コストが下がれば自費支弁もできる。コロナ禍で電車等の通勤や旅行需要が減少し労働人口減も考えれば、鉄道その他公共交通機関が二地域居住向けの割安プラン例えば往復切符やその回数券化(一種のサブスク)を開発提供したり、隣接する地方都市が連携し主要都市との間に高速バスを共同運行することも考えられる。南房総地域から東京へは民間路線の「なのはな号」が運行されている。

都市、地方自治体とも上記メリットを考えれば、住居や交通に補助や減税施策等も有益と考えられる。住民票を地方に置くことで租税負担が減るなら、都市から地方に住民票を移して地方に納税する者が増え地方に定着する(Iターン)可能性もある。

考察2:二地域居住には「雇用側の意識、働かせ方」改革が必要

筆者が「出稼ぎ施設長」ができたのは、現地住居と交通費(ガソリン代)支給があり、何より裁量労働で自由な勤務日程が認められたことが最大の要素であり、月金週5日労働なら実現は不可能だった。

介護系管理職求人を見ると(訪問看護を含め)同じ求人が出続けている。有能な管理職や専門職・技能職を求めるなら硬直した「月金週5日労働」や「副業禁止」にこだわらず、ミッションを明確にし働き方の自由度を実現すべき、従来型雇用とジョブ型雇用の良いとこ取りが必要だ。

既存の雇用体制でも出張扱いや欠勤控除等により「働き方改革」は可能であり、雇用主の意識改革が働き方改革と二地域居住を促進する。自治体は事業者へのインセンティブを考えるべき、特に人材不足の介護サービスは管理者要件(常勤専従)の緩和も必要だ。

まとめ:働き方改革としての二地域居住で地方再興とゆとりある生活を

地方の過疎化と対策が言われて久しい。コロナ禍により人口密集する都市部が感染症流行に対して脆弱と露呈し、我が国経済全体が沈むほどの影響を受けた。都市部と近郊では住宅老朽化や空き家が問題になっている。孤独死や貧困家庭等、地域コミュニティの共助が少ない都市部はスラム化する危険すらあり得る。

一方で特に東北では大震災後、再興を目指し新しい街づくり産業再興が進められている。「モノ溢れファスト生活」の利便性はあるが雑多な中に不審者犯罪者や事故リスクが多い都市部に対し、地方には豊かな自然や産物に恵まれた生活と「地域コミュニティの見守り(監視)」による安心があり、都市部にはない魅力とメリットがある。

企業・自治体の努力により二地域居住が推進されれば、都市部は定在人口を減らし交通その他ストレスや感染症リスクを減じ、地方過疎地は人口流入により活性化できる。近年問題視されている農地や山林の放棄荒廃も都市部からのボランティアによる保全が始められる等、人口減社会において人口分散と「田舎とのつながりの創生、復活」 は産業や国土の保全にも寄与するはずだ。

問題は魅力ある土地との出会いである。情報とマッチングを整備しワーケーション(宿泊)施設を契機として様々な土地を体験し、気に入ったところに居を構える流れが必要だ。福島県アンテナショップ「ミデッテ」が移住情報を常設しているように、都市部の各地アンテナショップに期待したい。

二地域居住が手軽な社会になれば、都市部で仕事し休日は地方でゆったり暮らす、逆に地方で農林水産業に勤しみ休みは都心に遊ぶ、今までにない質的に豊かな生活を楽しめるようになるだろう。

 

【参考】
国土交通省 二地域居住
全国二地域居住等促進協議会
二地域居住への取り組みが加速。都会と地方のデュアルライフは広がるか
日本橋ふくしま館MIDETTE(ミデッテ)※下方バナーに「ふくしまぐらし」移住ポータルサイトへのリンクあり
ふくしまぐらし
南房総のシェア里山で新しい自分を孵化させる!『里山インキュベーション』を体感する人たち|ココロココ
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「この先」に出会う、働き旅 南房総ワーケーション(南房総市観光協会)