政府は、国家権力の行使によって、個人情報を取得して利用しているが、民間では、情報を提供する側に利益を約することによってのみ、情報を取得することができ、提供側の利益になる範囲においてのみ、情報を利用することができる。
銀行は、顧客から融資の申し込みがあれば、所得や財産などに関する多くの個人情報を要求するわけだが、それを顧客が提供するのは、融資を得ることが自分の利益だからだという点を忘れてはならない。しかし、現実には、多くの銀行員は、銀行の規定に従い、顧客は情報を提供すべきだと誤解しているのではないか。
銀行においては、様々な帳票類への記入とか、情報提供とか、確認書への押印とか、銀行が顧客に要求することは著しく多い一方で、顧客の側においては、それに従うことの合理的根拠や利益は必ずしも明確ではなく、要は、銀行は、規制業の特殊性を利用し、形式への準拠を顧客に求めているにすぎないと考えられる。これは、ちょうど、タクシーやエアラインにおいて、顧客の安全という本来の目的から遊離し、単なる規制上の形式として、シートベルトの着用が強制されるのと同じである。
こうした実態について、金融庁は、顧客の利益が先になければならないという商業の常識を説いていて、役所に商業の道を説教される銀行というのは、役所以上に役所的だということだから、驚くべきことというよりも、呆れるべきことである。
また、金融庁は、デジタライゼーションを重視しているが、そこでは、明確に、個人情報利用における金融サービス利用者の利益優先の考え方が示されていて、デジタライゼーションが金融と非金融の境を曖昧にしていくなかで、金融機関に対して、利用者の利益の視点で金融サービスを提供できるように、個人情報利用も含めて、ビジネスモデルを顧客起点で変革していくことを求めているのである。
更に、金融庁は、国民を金融庁の顧客として位置づける方向へ、官庁としては異例の自己改革を推進していて、金融庁が金融サービスを提供する事業者に何かを求めるとしたら、それが事業者の利益だからで、なぜ事業者の利益かというと、それが国民の利益だからだという論理構造をとっている。つまり、金融における個人情報の利用は、国民の利益になる限りでのみ可能だということである。
森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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