欧州で再び戦争が起きた!!

歴史家は「2022年2月24日」を欧州で戦争が再び起きた日として記録するだろう――、ドイツ民間放送の解説者がこのように語った。第2次世界大戦後、欧州は暫く平和だったが、多民族の入り混じる地・バルカンで民族紛争が起き、多くの犠牲者が出た。その後、欧州では戦争と呼ぶような大きな紛争はなかった。

それが24日、ロシア軍がウクライナ東部に武力侵攻し、ウクライナの首都キエフばかりか、北部、南部でもウクライナ政府軍と衝突している。オーストリア日刊紙エステライヒは25日付トップに「欧州で戦争が起きた」という見出しを付けていた。ロシア軍のウクライナ武力侵攻は欧州人に大きな衝撃を与えているわけだ。

ウクライナ武力侵攻を宣言するプーチン大統領(2022年2月24日)

オーストリア国営放送の記者が、「ウィーンとキエフの間は427キロしか離れていません。ウィーンにとってキエフはフォアアールベルク州よりも近いです」と述べていた。チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年4月)の時もそうだったが、ウクライナで起きた出来事はオーストリアにも直ぐに影響が出てくる。ウィーン大学には多くのウクライナ人学生が留学している。ロシア軍のウクライナ侵攻は他人事ではないのだ。

当方はドイツのニュース専門放送でウクライナの情勢をフォローした。ロシア軍が24日早朝に侵攻し、ミサイルを発射するなど本格的な軍事行動を開始。砲声で目を覚ましたというウクライナ人は、「ロシアが侵攻するとは言われていたが、戦争が実際起きるとは考えていなかったのでショックを受けた」という。ゼレンスキー大統領は国民に武器をもって祖国を守ってほしいとアピールしている。

キエフ市周辺では西側に逃げるため道路は車の長い列が出来、銀行の現金引き出し機前では市民が長い列を作った。中年の女性は、「どこに逃げればいいのか分からない」と泣き声で路上をさまよっていた。その間もキエフ近郊でロシア軍の砲声が聞こえ、市内は警報が鳴る。地下鉄の駅構内に逃げ込む市民で溢れている。

オーストリアのネハンマー首相は24日、国民議会でウクライナ情勢を報告した。同首相が、「今朝、ゼレンスキー大統領と電話で話した。彼はウクライナがいつまで存続するかわからない、私自身も明日生きているかどうかも分からないと述べていた」と語ると、議員たちの表情に緊迫感が走った。

欧州各地で在欧のウクライナ人がロシア軍の武力侵攻に抗議するデモを行った。「ウクライナの主権蹂躙」、「プーチンを許すな」と言ったプラカードを掲げていた。オーストリア国営放送は「困窮下にあるウクライナ国民を救え」ということで救援金集めのキャンペーンをスタートした。その対応の迅速さには感動した。多くの欧州国はウクライナからの避難民の受け入れを表明している。

参考までに、モスクワでもプーチン大統領のウクライナ侵攻を批判するデモが行われたが、警察隊は参加者を即拘束するなど、強制的にデモを解散させた。

バイデン米大統領、ショルツ独首相、マクロン仏大統領、ジョンソン英首相、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長、欧州連合(EU)のフォン・デア・ライエン委員長ら欧米指導者は同日、ロシア軍のウクライナ侵攻を激しく非難し、対ロシア制裁の一層の強化を発表する一方、ウクライナ国民に連帯を表明した。ただ、米国を含むNATO軍はロシア軍の侵攻に守勢を余儀なくされるウクライナ政府軍への直接の軍事支援は考えていない。ロシア軍との正面衝突で世界大戦が勃発する危険が出てくるからだ。

プーチン大統領はNATOが軍事行動に出ないことを知っているだけに、親ロ派勢力の拠点ウクライナ東部だけではなく、首都キエフを制圧し、ウクライナに親ロ派政府を樹立、同国をその影響圏内に留めさせたい意向ともいわれる。同大統領は、「ウクライナ政府軍は武器を下ろせ。抵抗すれば武力で制圧する」と警告を発している。

ウクライナ政府軍はロシア軍の侵攻を止めることはできないだろう。NATO軍はバルト3国、ルーマニアなど加盟国の安全強化に忙しく、常任理事国にロシアと中国が入っている限り、国連に実質的な活動は期待できない。状況はプーチン氏に有利に動いている。

国際社会から批判を受け、経済活動に大きな支障をもたらす制裁を甘受してもウクライナ侵攻を決断したプーチン氏の蛮行を止めることは難しくなってきた。それだけに、ロシアのウクライナ武力侵攻の動向を見守っている中国共産党政権の出方に注意が必要となってくる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。