政権崩壊の始まりを予感
「誰もプーチン大統領を抑えることができない」、「プーチンは批判に動じていない。19世紀の帝国時代を復元した21世紀の皇帝になりたいと願っている」、「過去の多くの侵略者のように致命的に行き過ぎた」。聞こえてくるのは、プーチン大統領への声高な非難ばかりです。
新聞の社説も「撤兵を求める国際圧力を」(朝日)、「国連憲章を踏みにじる重大な暴挙」(読売)、「プーチンには停戦しか道はない」(日経)と、声をそろえています。指摘は全て正しくても、虚しく聞こえてきます。いつか停戦になっても、暴挙はウクライナにそのまま残される。
イラク、リビアの独裁者は最後は葬られ、戦前ならヒトラーです。プーチン大統領も同じ運命をだどるかもしれないという道に踏み込んでしまったとの予感を持つ人もでてきています。
「致命的に行き過ぎ」とは、英FT紙の前編集長・バーバー氏の見解です(日経2/26日)。「プーチン政権の崩壊を早める結果を生む。18か月以内にそれが証明される」(アゴラ、白石和幸氏)といった指摘も増えてくるでしょう。
西側はプーチン政権の崩壊、プーチン排除のシナリオを練ることに知恵を絞る時がきたと思います。中途半端な幕引きのシナリオでなく、排除のシナリオです。民主主義国の脆弱性を中露に突かれています。独裁的な強権国家に対決し、民主主義国の強靭さを取り戻す好機にすべきです。
ロシアを国際的な資金決済網・国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除するという強硬な制裁案への支持が広がっています。ロシアと取引が多い欧州諸国は大きなリスクを負っても、欧米は容認し、「日本も対応する」(林外相)との報道です。
英BBC放送によると、「欧州議会(EC)議長は、ロシア中央銀行を機能不全にする」と発言したとか。「機能不全」の意味は不明なものの、国際金融との繋がりを切断すれば、ロシア経済の息の根は止まります。プーチン退陣のシナリオの重要な柱になります。
そこまで踏み込み、プーチンを排除する。西側はもちろん、世界経済も返り血を浴びる。それを覚悟の上での決断になります。西側の危機感は日増しに高まっている。週明けの株式市場は波乱に直面するでしょう。
「プーチンがウクライナ侵攻に踏み切ったのは、中国という後ろ盾があることを認識していたからだ。中露関係は想像以上に強力で、大変懸念している」(米軍事専門家のリチャード・ワイツ氏)との指摘があります。
ウクライナに親ロシア政権を樹立し、プーチン政権がこのまま続き、中露関係が堅固になれば、中国による台湾掌握も現実味を帯びてくる。日本にも重大な影響が及びます。その場合、中国に対するSWIFTからの排除は不可能です。
ロシアに比べ、中国経済の比重は格段に大きく、そうした制裁は世界経済のマヒにつながるから、それはできない。今を逃すと、中露の連携は強化され、中国は力を得る。
ウクライナ後の世界情勢の展開を考えると、プーチンに対する国際非難が最高潮に達している時を狙い、政権崩壊のシナリオを練り始める。その契機にすべきだと思います。軍事力で対決すると、世界戦争に発展するからそれはできない。非軍事的手段を総動員してプーチン退陣に追い込む。
生半可な停戦合意、事態収拾で終えると、喜ぶのは中国でしょう。そんことをすれば、その後は中露連合のやりたい放題になるに違いない。新冷戦どころか、世界は完全な分断の時代に入る。
ロシアと緊密なカザフスタンのトカエフ大統領は、ウクライナへの軍派遣を求められたのに、拒否したそうです。ロシア国内でも、一般国民や軍部の中、退役軍人らがプーチン批判の動きがある。独裁者プーチンによる「私的な戦争」との見方も、反プーチンの背景にあるようです。
「プーチンの国家的アイデンティティは『新ユーラシア主義』で、ロシアを中心とした文明圏の再構築で、ロシアとウイライナは不可分な『兄弟国』。ウクライナを失えば、自らの政権基盤を失うと思い込んでいる」(亀山郁夫・ロシア文学者)。「政権基盤を失いたくない」という私的な動機がウクライナ侵略の裏にあるとの見方です。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。