金融庁は、国民を金融庁の顧客として位置づける方向へと、官庁としては異例の自己改革を推進していて、国民の利益の視点にたって、国民の求める金融機能を先に考え、それが安定的に適切に提供されるように、金融機関を監督しているのである。
国民の利益を示すことは、政治の機能であって、行政の機能ではない。金融庁は、行政目的として、経済の持続的成長と国民の安定的資産形成を掲げているが、それは、政治の目的である国民の経済厚生の増大、即ち、国民の利益の増大を金融行政に具体化しただけである。
政治の基本は、国民の利益を示すことであり、国民を顧客に位置付けることである。政治の基本は、同時に、行政の基本でなければならない。この原理を明確にしたのは、行政機関のなかでは、金融庁が最初である。そして、いうまでもなく、金融行政においては、国民とは金融機関の顧客である。顧客の利益を示すことは、金融機関経営の基本であるべきだが、実際には、顧客不在の金融機関が多く、そこに金融行政の現実的な課題があるわけである。
金融に限らず、一般に、政治は行政を通じ、行政は民間企業を通じて、顧客としての国民に至るのである。ならば、この連鎖において、行政は政治にとっての顧客であり、民間企業は行政にとっての顧客である。
また、行政組織や企業組織においては、経営職は幹部職を通じ、幹部職は一般職を通じて、顧客としての国民に至るのである。ならば、この連鎖において、幹部職は経営職にとっての顧客であり、一般職は幹部職にとっての顧客である。
実は、リーダーシップの本質は、顧客としての国民を起点とした連鎖関係である。つまり、優れた政治指導者は、国民と企業と行政機関に、裏表のない同じメッセージを発信し、官僚機構の優れたトップは、国民と企業と所属官僚に、裏表のない同じメッセージを発信し、優れた企業経営者は、顧客と従業員に、裏表のない同じメッセージを発信するのである。
要は、顧客としての国民の支持のないところに、力強いリーダーシップは生じないのである。故に、リーダーシップの本質は顧客本位である。
森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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