子どもが社会の犠牲になるのを我々は黙認してよいか --- 家田 堯

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私達の団体Think Vaccine(thinkvaccine.info)が行ったアンケート調査の結果を先日プレスリリースしました。5-11歳のmRNAワクチン接種の必要性、ウイルスによるリスクの認識、信頼する情報源を不特定の15歳以上および保護者等(計4500人)に問うた本調査の詳細については、こちらのページをご覧下さい。

調査結果を踏まえ、5-11歳人口の接種を目前に以下の点を社会に問います。

① 現況下、「正しい知識を」持ち、ワクチンのメリットとデメリットを「本人と養育者が十分理解」することは可能か。

② 信頼できる情報源が無い状態で、私達は何に基づき子どもの接種・非接種を判断するのか。

③ 子どもへの接種を通じて社会を守るべきと考える大人がいるようだが、その考えは妥当か。考えに科学的根拠はあるのか。

① について

厚生労働省が作成した5-11歳の接種に関する案内には、ワクチンのリスクとベネフィットについて保護者等が「正しい知識を」持つことの必要性が記されています。日本小児科学会による提言には、ワクチンの「メリット(発症予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解」することの必要性が記されています。

ワクチンのメリット(ベネフィット)を理解するには、新型コロナウイルス感染症によるリスクの理解が不可欠です。言うまでもなく、感染症によるリスクの度合いに応じてワクチンに求めるベネフィットや許容できるリスクが変化するからです。感染症リスクを把握する有用な指標の一つが死亡率・死者数です。

今回のアンケート調査によれば、保護者の約75%が感染症により亡くなった子どもの数を把握していません。接種についてなぜ必要/不要/様子見と考えるかに関する自由回答からは、ウイルスによる影響が過小評価あるいは過大評価される傾向が見られました。このような状況において、保護者等がワクチンに関し合理的な判断を下せる可能性は低いと思われます。

各国の状況(小児コロナ関連死者数、政府見解、小児接種率等)を紹介するページを作成するにあたり各国の報道や広報等を調査していたところ、ほぼ例外なくどの国でも、小児コロナ関連死者数が定期的に報じられていました。少なくとも数か月おきに重症者数や死者数の累計が公開され一般市民が容易に感染症のリスクを把握できる環境が整っています。

日本で小児コロナ関連死者数の累計を定期的に報じてきた組織はごく少数です。感染症による重症者や死者があるとセンセーショナルに報じられてきましたが、アンケート調査結果から推察するに、そのような報道が多くの市民に与えたのは正確な情報以外(以上)の何かでした。

昨年の夏にはインドネシアのコロナ死者の3割が子どもであるといった趣旨の報道が全国規模でなされました。直ぐに訂正されましたが、報道の規模と訂正の規模とに顕著な差がありました。この差について報道機関に問い合わせたところ、「報道と同じ規模で訂正文を出すなどのルールは一切無い」との返答を得ました。

これまで報道・広報を通じて国民に付与されたのが正しい情報以外の何かであった場合、厚生労働省が国民に「正しい知識を」持つことの必要性を説くことはできず、小児科学会が期待する「十分」な「理解」が成立する可能性は高くありません。

② について

報道・広報のこのようなあり方のせいか、アンケート調査では回答者の過半数が信頼できるワクチン情報源を「ない」と答えました。一方、接種について、(比較的)必要(約60%)あるいは(比較的)不要(約15%)といった(比較的)明確な回答ではなく、もう少し様子をみるべきではと回答した人は約25%でした。つまり、信頼できる情報源がない状態で接種・非接種について(比較的)明確な意見を持つ回答者がいました。

多くの国民の意見の根底に、厚生労働省が求める「正しい知識」以外の何かが存在する可能性があります。なお、厚生労働省を含む日本政府を信頼できる情報源と答えた人の割合は約12.5%でした。

③ について

子どもの接種が(比較的)必要と考える回答者の中に、社会的な理由を挙げた人がいました。以下、一例を紹介します。

<子どもがいない家庭の回答者>

  • 社会のため(94歳、男性)(85歳、男性)
  • リスクはあるが感染拡大を防ぐためにも必要だと思う(30歳、女性)
  • 子供は症状が出にくく知らないうちに家族や他の人に感染しやすい(74歳、男性)

<子どもがいる家庭の回答者>

  • 経済活動が滞る(36歳、男性)
  • 基礎疾患にはそれぞれ様々な症状があると思うので医師に判断を任せるのが良いが、健康な子は移ったり移したりを防ぐために摂取してほしい(43歳、女性)

これらの回答者の少なくとも一部はワクチンに感染抑制効果を求めていると認められます。既にデルタ株あるいはそれ以前の株の流行時、一部の専門家は感染抑制効果を疑問視していました。感染の主流がオミクロン株に置き換わった今、感染抑制効果を期待してはいけないと長崎大学の森内浩幸教授は語ります。

そもそも現在得られている子どもへのワクチン2回接種の効果はオミクロンより前の株に対する知見に基づくものであり、オミクロン株に対する十分な知見は得られていません。日本国内のオミクロン株に関するデータについては、その不自然さが指摘されており、子どもだけでなく如何なる年齢層の接種に対しても、適切な判断基準とはなり得ません(これに関しては、小島勢二氏の記事や鈴村泰氏の記事に詳述されています)。

また、感染が主に大人の社会から子どもの社会へ拡がっている傾向も、デルタ株流行時以前と変わっていません。つまり(他の国では異なる傾向も見られるものの)日本では、主として大人が子どもを感染させているのです。

このような条件の下、感染抑制を期待する大人が子どもへの接種を望むことは、非科学的であるのみならず、非論理的かつ非道徳的です。容認できません。

近い将来5-11歳の子ども達が私たちの社会の不適切な在り方の犠牲になることを社会はどう考えるか。おそらく12歳以上の子ども達が既に社会の犠牲になったであろうことの責任を、誰が果たすのか。今からでも、自責の念をもって私たち一人ひとりにできることをすべきです。

上記アンケート調査結果は多くの報道機関に紹介してあります。読者の皆様からも報道機関等にご紹介下さると幸いです。今後、5-11歳の接種についてどのような報道がなされるのかを見守りたいと思います。社会に潜在する問題が表面化した今、報道機関が現状を黙認し傍観するようなことはないと、信じています。

家田 堯
一般社団法人発明推進協会(東京都港区)、知的財産研究センター翻訳チーム主査。翻訳家。英語、イタリア語、ハンガリー語、ロシア語の翻訳実績がある。学生時代の専攻は音楽。mRNAワクチンに関し様々な観点から情報を紹介するウェブサイト、Think Vaccineを運営。

Think Vaccineでは、包括的な情報を紹介するため次のページを設けています:子どもの接種について

国内外の多くの科学者や組織の見解を紹介するページです。

また、複数の医師を招いて討論会を開催し、その様子をYouTubeで紹介しています。

お子様や保護者の方には次の動画をおすすめします:若い世代のワクチン接種 多角的に考える接種の意義とリスク・ベネフィット

講師:森内浩幸(長崎大学大学院教授)、小島勢二(名古屋大学名誉教授)

4時間以上におよぶシンポジウムです。お時間のない方は最初の約100分(両講師によるお話)だけでもご覧になる価値があります。

医療従事者、特に小児科医の方には次の動画をおすすめします:5-11歳のワクチン接種:オミクロン株の知見も踏まえ考える

講師:吉川哲史(藤田医科大学教授)
コメンテーター:小島勢二(名古屋大学名誉教授)