研究者として今は理解できない事象でも、不可思議さや神秘さに対して拙速に解決さを見出すのではなく、興味を抱いてその宙吊りの状態に耐えることが重要だということで、前回以下の動画をアゴラでも紹介していただきました。
「ネガティブ・ケイパビリティ」の必要性
その元ネタとなった本を今回紹介します。
著者の帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんは、作家で精神科医でもある方です。九州大学医学部卒業して、北九州市八幡厚生病院副院長を経て、現在、福岡県中間市で通谷メンタルクリニックを開業されているとのことです。アフガニスタンでの灌漑事業で、箒木さんと同じく九州大学医学部を卒業された故中村哲医師が、江戸時代の筑後川の堰を参考にされたということです。
その箒木蓬生さんのエッセイ的な著作が今回紹介する「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」です。
帚木蓬生 (著)「ネガティブ・ケイパビリティ」
本書は「ネガティブ・ケイパビリティ」の紹介の後、シェークスピアの数々の作品や紫式部の「源氏物語」を例にとって具体的な「ネガティブ・ケイパビリティ」、そして共感力に関してご自身の感想を、精神科医の立場と作家の立場から紐解いていきます。 そして最後に、ご自身の精神科医としてのご経験から、教育の分野と社会問題となっているギャンブル依存症と「ネガティブ・ケイパビリティ」を関連付けて語っておられます。
実はこの本は、最近「オープンレター問題」関係でアゴラに記事を載せておられる與那覇 潤さんが、以下の著作の中で触れられていたのを読んで知りました。
與那覇 潤(著)「歴史なき時代に 私たちが失ったもの 取り戻すもの」
與那覇さんの仰る「誰かが過失を機に他の誰かに一度支配されたら、類似の報復を相手に「やり返す」ことでしか復権できない社会よりも、誰もが自らのうちに秘密や失敗や問題を抱えつつ、常に「やり直す」機会のある社会を選びたい。」は、本書の「ネガティブ・ケイパビリティ」にすごく影響を受けているのだろうと勝手に推測していますが、学問の世界には益々「ネガティブ・ケイパビリティ」が必要だと感じました。
なお、與那覇 潤(著)「歴史なき時代に 私たちが失ったもの 取り戻すもの」の書評動画も、アゴラで紹介していただいています。
【研究者の書評】與那覇 潤(著)「歴史なき時代に 私たちが失ったもの 取り戻すもの」