ロシアのウクライナ侵攻で困難になった中国の「台湾侵攻」

予想外のウクライナの抵抗

2月24日に侵攻を開始したロシアによる「ウクライナ戦争」は、ウクライナ側の予想外の抵抗により、ロシア側の作戦遂行は必ずしも順調ではないようである。3月5日現在、ウクライナの首都キエフはウクライナ軍及び市民の抵抗によりロシア軍の攻撃から死守されている。

当初、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ軍の能力は低く、市民の抵抗もなく、ゼレンスキー大統領も逃亡し、ロシアの言いなりになる傀儡政権を樹立できると思っていたのではないか。

しかし、ウクライナ軍の能力は、2014年のロシアによる「クリミア併合」以後、近年、米欧の支援で飛躍的に上がっていた。また、今回の侵攻で、ロシアは戦線を広げすぎたため、補給の問題も生じている。

プーチン大統領の「焦り」

焦ったプーチン大統領は、ウクライナやこれを支援する欧米に対して、「核恫喝」を余儀なくされているが、非核保有国であるウクライナに対する実際の核兵器の使用は、「人道に対する戦争犯罪」として、全世界から猛烈な非難を受けるであろう。

のみならず、ロシアによる非核保有国ウクライナに対する実際の核兵器の使用については、ひたすら「核戦争」を恐れる米国およびNATOといえども、いつまでもこれを黙認したり、座視したりすることは国際社会が許さないであろう(3月4日掲載「ロシアの「核恫喝」を許すな」参照)。

国際社会の非難の高まり

ウクライナの「原発」まで攻撃したロシアに対しては、国際社会の非難は日を追うごとに高まっている。国連総会は3月2日の緊急特別会合で、ウクライナに侵攻したロシアを非難し、即時撤退を求める決議案を141か国の賛成多数で採択した。

決議は、ウクライナ侵攻を「侵略」とみなし、領土の保全と独立を侵害する武力行使を禁じる「国連憲章違反」と断じた。この決議に対しては、ロシアと「友好関係」にあるとされる中国でさえ正面から反対できず、棄権せざるを得なかったのである。

困難になった中国の「台湾侵攻」

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中国は、長年の「台湾統一問題」を抱え、今回のロシアによるウクライナ侵攻を注意深く見ているであろう。ロシア軍の作戦の巧拙、国際社会の反応、経済制裁の効果、ロシア国内の世論の動向などを慎重に分析しているに違いない。

ロシア軍の作戦については、戦線を広げすぎ補給等の問題が生じたことを中国は重視しているであろう。中国軍なら首都キエフに対して攻撃を集中し、短期決戦で陥落させる作戦をとることを考えるであろう。しかし、陸続きではない台湾海峡では、特別の困難さがあることも認識しているであろう。さらに、「台湾関係法」に基づく米軍の介入も想定せざるを得ないであろう。

国際社会の反応については、これほどに欧米のみならず、世界各国のロシア非難が拡大するとは中国も想定外であろう。また、欧米の経済制裁により、ロシア・ルーブルの価値や株式時価総額が驚異的に暴落したことも中国の想定外であろう。さらに、ロシア国内の反対運動も中国の想定外であろう。

以上の中国にとって想定外の各事態により、中国政府としては、(1)「台湾侵攻」は、今回のロシアによるウクライナ侵攻とは異なり、「台湾関係法」による米軍介入の可能性を排除できないこと、(2)対艦ミサイルや最新鋭戦闘機などによる台湾軍及び国民の抵抗も十分予想されること、(3)陸続きのウクライナとは異なり台湾海峡を隔てており、上陸作戦等において軍事的な困難さを伴うこと、(4)「台湾侵攻」により、今回のロシアと同等又はそれ以上の国際社会の厳しい非難を受け国際的に孤立化が避けられないこと、(5)欧米諸国や日本の経済制裁により中国経済が深刻な打撃を受けること、等を想定せざるを得ないであろう。

こうしてみると、「台湾侵攻作戦」自体の成功が不確実であるうえに、習近平国家主席提唱の国家目標である「中華民族の偉大な復興」も「一帯一路」も「製造業2025」も「共同富裕」も、すべてが不可能又は著しく困難な事態となることを覚悟しなければならないであろう。このようなリスクを冒してまでも中国があえて「台湾侵攻」に踏み切る可能性は、今回のロシアによるウクライナ侵攻により困難になったとみるのが相当であろう。

もちろん、今後のウクライナ情勢や、中ロの動きを慎重に見極める必要があることは言うまでもない。