経済記事に安全保障感覚が必要
中露の関係強化に後押しされ、ロシアのウクライナ侵略が続く一方で、中国経済の減速が報じられています。私は歓迎すべき傾向だと思っています。日本のメディアには、例えば「人口の少子化は中国の経済成長を抑制しかねない」といった記事が掲載され、安全保障感覚のなさに失望しています。
ロシアの侵略、暴虐が続き、ウクライナは地獄のような悲惨な状況に陥っています。中国は「必要なら仲裁を行う用意がある」(王毅外相)と言いながら、様子を窺いつつ、中国に最も有利な情勢に持ち込もうとしているに違いない。そうさせてはなりません。
習近平指導部はウクライナをめぐる展開を注視しながら、次は台湾支配をどう進めていくかに思いをめぐらせている。対露経済制裁で日米欧も返り血を浴び、西側経済は足を引っ張られる。最も有利なポジションをとろうとしている中国の経済減速は歓迎こそすれ、懸念すべきことではないのです。
中国は22年のGDP成長率を5.5%に設定しました。30年あまりで最低の成長目標とはいえ、民間の予想よりは高い。米経済金融通信社のブルームバーグは7日、「世界経済にとってはウクライナ危機による足かせを打ち消すには力不足だが、一助にはなる」との記事を配信しました。
ウクライナ危機の最中というのに、5.5%成長は「力不足にせよ、一助になる」という意識は、大局をみていません。中国の国富(正味)は米国を抜いて、世界首位の120兆ドル(マッキンゼー調査)だそうです。世界シェアは23%で、米国の17%を上回る。中国経済の膨張こそ世界の不安定要因です。
日本のメディアはどうか。「中国、将来不安で少子化。出生数が最小の1062万人」という日経新聞記事(1/18)は気になりました。「少子化が止まらない。中長期にわたり経済成長を抑制しかねない」と。このようなことは、習近平政権が心配すればいいことなのです。日本からすると、「成長の抑制」は歓迎すべきことです。なぜそう書かないのか。
中国では全国人民代表大会(全人代)が開幕し、李克強首相は台湾問題で「外部勢力の干渉に断固反対する」と、米国の台湾への関与をけん制しました。
「ロシアのウクライナ侵略は、軍事大国による主権国家への露骨な干渉だ。外部勢力の干渉への反対を掲げながら、ロシアの暴挙に目をつぶるのは矛盾している」(読売社説、6日)のです。それが中国です。どんどん経済成長し、軍事予算の膨張も続いたら、台湾、日本などの安全保障は脅かされる。
世論調査では、「力によるロシアの一方的な現状変更が続き、中国が台湾に武力行使でもしたら、日本の安全保障上の脅威になるか」との問いに、「そう思う」が81%の高率になりました(読売、7日付)。日本の国民は「ウクライナ情勢の次は台湾問題」となることを恐れている。
日経は社説で「成長の減速が続いている。不透明は世界経済を占ううえでも、中国経済の行方に細心の注意を払うべきだ」(7日)と主張しました。「ウクライナ情勢も下押し要因だ。共産党政権が自ら招いた政策不況から脱する抜本的な施策が見当たらない」とも。
私の考えは逆です。「ウクライナ情勢の次は台湾か」と注視されている時期だからこそ、中国経済が減速し、他国への干渉どころではなくなることが必要なのです。「抜本的な施策」が見当たらないほうがいい。習近平政権と同じ目線で考えるのではなく、台湾や日本からみた目線を持つべきなのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。