成長性のない事業を束にして上場させるという妄想

経営者の高齢化が進むなかで、事業承継が困難な問題になっているが、その理由の一つは、承継対象の事業に成長性のないことである。理屈上は、成長性がなくとも、継続性があれば、承継可能なのだが、事業承継が資本取引である以上は、一般的には、資本価値の成長期待が必要なのである。

つまり、資本には満期償還がないので、出資者の立場からすれば、再譲渡による投資回収の可能性を常に確保せざるを得ず、再譲渡時に、資本の価値が成長によって増殖していることは、経済取引としての事業承継を成立させる要件になるわけである。

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実は、事業活動により付加価値が創造されている限り、配当によって、計画的に投資額を回収する方法もあり得るのである。ただし、大きな難問は、仮に年率5%の配当でも、投資元本の回収に20年も要してしまうという超長期性である。しかも、配当の支払いは確実ではなく、あくまでも期待にすぎないという大きな不確実性が加わるから、配当による投資回収を前提とした出資は、経済取引としては、簡単に成立しない。

そこで、参考になるのは、不動産投資である。不動産投資には、一方で、成長、即ち、不動産開発への投資があり、他方で、成長を志向せずに、開発済みの物件を超長期保有する投資もある。リート(REIT)は、後者のための優れた工夫である。

リート自体は、不動産を超長期的に保有して、投資回収するが、リートそのものが上場されているので、投資家は、市場で売却することにより換価でき、しかも、不動産の賃料収入の期待値にかかわる不確実性も、多くの物件への分散投資により低減されているのである。

理論的には、リートと同様の工夫により、成長性のない多数の事業を束にして、それらを長期保有する投資ファンドを上場させることができれば、事業承継の有力な解決策になる。そのためには、投資対象の事業の客観的な公正価格が算定できて、分散によって配当収入を安定化させることができればいいのだが、さて、妙案はないのか。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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