ペスコフ報道官、核使用のハードルを上げる!?

22日、「もし我が国にとって存亡の危機であれば、我々の概念に従って(核兵器を)使用することができる」と述べたロシア大統領首席報道官ドミトリー・ペスコフだが、28日に米ネット番組「PBSニュースアワー」のアンカーの質問に答える中で、核使用のハードルを上げたと取れる発言を行った。

先週末、メドベージェフ前大統領も22日のペスコフ発言と全く同じ内容の発言をしていて、それがプーチン政権の統一見解だったはずなので、短期間でのこの軌道修正は極めて興味深い。「PBS」サイトでやり取り全文の文字起こしが読めるので、以下にペスコフ発言のポイントを紹介する。

インタビューを受けるドミトリー・ペスコフ氏(右)
出典:PBSより

 

ライアン・チルコフ(聞き手。ロシアで数週間取材していた特派員):バイデン氏がプーチン氏をbutcher(部下を大勢戦死させる将軍の意)と呼んで権力維持は不可能だと言い、後にレジームチェンジを主張している訳ではないと述べたが?

ペスコフ:侮辱だ。遺憾であり受け入れられない。誰がロシア大統領になるのか決めるのは米国大統領ではなく、ロシアの人々による選挙だ。

ライアン:核兵器についての発言でいくつか明確にしておきたい。具体的にどの様なことがロシアの存立危機になるのか。ロシア国内での交戦やロシアへの攻撃がないのに、ウクライナで目的を達成できなかったら存立危機と見做すのか。

ペスコフ:ウクライナでの特別軍事作戦の完了に疑いはないが、結果に関わらずそれが核兵器使用の理由にはならない。我々には安全保障の概念があり、それは自国の存続に脅威がある場合にのみ、その脅威を排除するために核兵器を使用でき、実際に使用することを明示している。

国家の存続とウクライナでの特別軍事作戦の2つは互いに何の関係もない。が、同時に2月24日に作戦を命じたときの大統領の声明には、作戦の間、ウクライナとロシアの問題に干渉しないよう、第三国に厳しく警告した。彼が何を言いたかったのか誰もが理解していると思う。

ライアン:核兵器を使用するという意味か? 第三者が紛争に巻き込まれた場合、核兵器を使用することを示唆していたのですか?

ペスコフ:私はそうではないと思う。が、大統領はかなり大胆に干渉するなといったので、それを阻止し、干渉しようとする全ての者を罰するためのあらゆる可能性がある。

ライアン:もし貴方が自らの存立危機事態の辞書的定義に従うなら、現在起こっていることや起こりうる事柄さえ、ロシア国家の存立を脅かすハードルに達することはないのでは? だのになぜ今そのことを明らかにしないのか? なぜ貴方はロシアを代表してこの紛争における核使用をこの場で否定できないのか?

ペスコフ:核兵器の使用については、誰も考えさえしていない。

ライアン:バイデン氏も今週末、プーチン氏に「NATOの領土を1インチでも侵そうなんて考えるな」と警告した。この紛争中にロシアがNATOの国を爆撃したり、軍隊を送ったりする必要性を感じるような状況を想像できますか?

ペスコフ:もしそれが仕返し(reciprocal act)でないなら、つまり、もし彼らが我々にそれをさせないなら、それは我々には考えられないし、考えたくない。

ライアン:米国などの諸国は、ロシアがウクライナでしていることを戦争犯罪、つまりロシア軍が民間人を意図的に標的にしているようだと言っている。調査を開始した国際刑事裁判所(ICC)は、ロシアが協力要請に応えていないと言っているが、なぜ協力しないのか?

ペスコフ:我々はICCの管轄権を受け入れていないし、今後も受け入れるつもりはない。ロシア軍は当初から家屋もアパートを砲撃していない。作戦目標の1つであるウクライナ非軍事化に関連して、軍のインフラを狙い撃ちしているに過ぎない。

マリウポリの民間インフラ破壊や街から逃げ出そうとする人々を殺しているのはナチス大隊(Nazi battalions)だ。彼らはアパートを銃や武器、戦車、狙撃兵の避難所として使っていて、それが相互射撃の原因になっている。やっているのはロシア軍ではない。

ライアン:公平を期して申し上げるが、ロシア国外の誰もが、ウクライナ(the country)から流出した何百時間もの映像を見ている。そこには、民間インフラ、アパート、劇場、病院が広範囲にわたって標的とされている様子が映し出されている。

制裁とエネルギー供給についてもお聞きしたい。欧州諸国はガスの多くをロシアから調達し、ドルやユーロで対価を支払っている。プーチン氏はルーブルで支払うことを望み、膠着状態に陥っているように見える。もし欧州諸国がルーブルでの支払いを拒否したらロシアはガス輸出を停止するのか?

ペスコフ:彼らがこの可能性を拒否した時に何が起こるは判らない。最終的な決定がなされ次第、何ができるかを検討する。慈善事業でガスを無償で送るつもりはない。まあ、場合によるが、支払いがなければガスも出ない。

ライアン:貴方はガスの最良顧客である多くの欧州諸国が、ロシアとロシアのガスに背を向けていることをどう感じているか? ロシア経済の将来について、一抹の不安を感じないか?

ペスコフ:もちろん、我々が現実には見たくないことだ。が、双方は全面戦争の段階に入った。西欧州諸国と米加豪は、貿易、経済、財産や資金の差し押さえ、金融の遮断で我々に対して戦争を仕掛けてきている。我々は新しい現実に適応しなければならない。貴方方はロシアを理解しなければならない。

この作戦を検討した理由は何かと言えば、この数十年間、我々は西側諸国に対し、NATOが東へ移動するのを恐れていると言ってきた。我々もNATOが軍事インフラを伴って国境に近づくことを恐れている。そこを考慮して欲しい。我々を窮地に追い込まないで。(Please take care of that. Don’t push us into the corner.)

我々はウクライナのクーデター(ゼレンスキーの大統領就任の意)には満足していないと言った。ポーランドと独仏が保証している(ミンスク2)。外相らの署名が入った文書を覚えているか。が、何の反応もない。我々は、ウクライナのNATO加盟は好ましくない、我々を危険に晒し、欧州の相互抑止力のバランスを崩すと言ったが、何の反応もなかった。

ライアン:この紛争の結果、多くのNATO軍が以前よりもロシアに接近している。懸念に対処するための取り組みが、却って状況を悪化させたと感じるか?

ペスコフ:まあ、状況はかなり懸念される。その通りだ。が、我々は賢明であり、この作戦の以前にNATOが同じことを、笑顔を浮かべながら徐々にやっていたことを知っている。我々はNATO機構とは、協力機構でも安全機構でもないと深く確信している。対立のための機構なのだ。

以上だが、現地を取材していたという聞き手の質問は的を射ており、またペスコフもこれらに可能な限り答えているように思う。

が、マリウポリの惨状をウクライナのナチス大隊の仕業に帰すところなど、立場上の限界があるようだ。また制裁が相当効いているらしく「窮地に追い込むな」と述べて、制裁が核の引き金を引く「国家存亡の危機」になり得ることを示唆もする。

筆者は『WSJ』紙が報じた「バイデンによる従来のNPR維持」を「観測気球」と書いた。そのNPRのせいではあるまいが、今回のペスコフは22日の発言を軌道修正したと感じる。停戦協議の様子やキエフ攻撃の手控えなどの報道を読むにつけ、プーチンが弱気になっている可能性もある。

が、結果がどうあれ、まず間違いなくロシアは国際社会から孤立し、「大きな北朝鮮化」の言説が現実味を帯びる。モーニングショーの名物コメンテーターは、それが「中国のお荷物になる」と言うが、中国に足りない多くの資源の存するロシアが、なぜお荷物になるのかの説明はない。筆者は無論、逆の事態を憂慮する。