共産党は「憲法違反の自衛隊活用」の具体策を示せ

日本共産党志位委員長の「自衛隊活用報告」

日本共産党の志位和夫委員長は、4月7日党の参議院選勝利・全国総決起集会において、「急迫不正の主権侵害には自衛隊を活用する」との幹部会報告を行った。

それによれば、「万一、急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守り抜くのが日本共産党の立場である」(4月8日付「しんぶん赤旗」参照)というものである。

防衛省・自衛隊HPより

これに対して、参議院選協力を目指す立憲民主党泉代表は一定の理解を示したが、日本維新の会松井代表は党綱領で違憲であると主張する自衛隊を活用するのはご都合主義であると批判した。

「ウクライナ危機」の影響

日本共産党がこの時期にあえて「自衛隊活用」を改めて強調したのは、世論調査にも示された、「ウクライナ危機」の影響による日本国民の安全保障上の不安や心配を無視できなくなったからであろう。

なぜなら、ウクライナは日本と安全保障上の共通点が多い。(1)ウクライナは核保有国のロシアに近接している、(2)日本は核保有国の中国・北朝鮮・ロシアに近接している、(3)ウクライナも日本も核兵器を保有していない、(4)ウクライナも日本も「非核三原則」である、(5)ウクライナも日本も「専守防衛」である。

このように、ウクライナと安全保障上の共通点が多い日本にとって、今回の「ウクライナ危機」は決して他人事ではない。その意味で、日本にとって、核保有(「核共有」を含む)の是非、非核三原則の是非、専守防衛の是非が議論になって当然であると言えよう(4月11日掲載「核の傘強化の日米共同常設核協議機関設置を緊急提案する」参照)。まさに「ウクライナ危機」の影響である。

日本共産党の「自衛隊違憲」と「自衛隊活用」

日本共産党は、党綱領四の(十三)で、「自衛隊については・・・安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる」と規定しており、「自衛隊違憲」を前提としているが、今すぐ自衛隊を解消するとは言っていない。

すなわち、共産党は、自衛隊が解消されるまでの間は「違憲」の自衛隊の存在を事実上認めているのである。この立場から「自衛隊活用」が出てくるが、「違憲」の自衛隊を活用することは、厳密には憲法に基づく行政権行使とは言えず、「立憲主義」に違反すると言えよう。

日本共産党のこの立場は、「自衛隊活用」がたとえ立憲主義に違反しても、国民の命と日本の主権は、立憲主義よりも、憲法9条よりも、党綱領よりもはるかに重大であり、最大限尊重擁護すべきであるとするものであり、日本国民にとっては歓迎すべきことである。

日本共産党は中国・北朝鮮・ロシアとも戦うのか

しかし、今回、日本共産党が改めて「自衛隊活用」の宣言をした以上は、将来、万一、中国・北朝鮮・ロシアが急迫不正に、尖閣諸島や沖縄本島など、日本の主権を侵害した場合には、共産党は自衛隊を活用して戦う、と国民は信じてよいのであろう。その場合、戦う以上は侵略した相手国を撃退しなければならない。そのためには、相手国を撃退するに足りる人的・物的な「自衛力」が必要不可欠である。

日本共産党は、この必要不可欠な「自衛力」をどのように維持整備するつもりなのか。又は減らすつもりなのか。共産党が考える陸・海・空の「自衛力」の規模はどれぐらいなのか。自衛隊員の数、イージス艦、護衛艦、戦闘機、戦車、地対空ミサイルなどの数や、偵察衛星、サイバー・電子兵器、ミサイル防衛をやめるのか、続けるのか。志願制なのか徴兵制なのか。防衛費は毎年どれぐらいを考えているのか。など、「自衛隊活用」を主張する日本共産党には様々な疑問がある。

さらに、日米同盟をどうするつもりなのか。日米同盟なしで上記の相手国に対して日本単独で戦えるのか。また、中国・北朝鮮・ロシアのような相手国が核保有国の場合でも、核兵器を保有しない日本が通常兵器だけで戦えるのか。共産党がこのような想定も構想も計画も準備もなく、ただ「自衛隊活用」だけを唱えるのは、日本国民に対して極めて無責任であろう。

日本共産党は「自衛隊活用」の具体策を示せ

そのうえ、他国からの急迫不正の主権侵害をあらかじめ抑止することこそ極めて重要であるが、共産党はそのための「抑止力」をどのように考えているのか。「抑止力」もなく、ただ単に憲法9条による「平和外交」だけでは日本国民は極めて不安であろう。「抑止力」がなければ、まさに「ウクライナ危機」の二の舞になりかねないであろう。(3月15日掲載「ウクライナ侵略の教訓:抑止力なき国は侵略される」参照)

このように、日本共産党は、「自衛隊活用」を主張する以上は、将来、他国からの急迫不正の主権侵害があり得ることを認めているのであるから、これに対して、上記に述べた様々な諸点について、国民が安心し納得できる「急迫不正の侵害から国民の命と日本の主権を守るための具体策」を早急に示すべきである。このような具体策や青写真すら示せないとすれば、日本の国政政党として極めて無責任のそしりを免れない。