先の論考では、
- 議決権を握る数の議員集団の権力が固定されている地方議会において
- 市長が当該議員集団の「言うことを聞く(最低でも反目していない)」状態にある場合
当該「権力固定議員集団」が議案に向かう姿勢として、
- 自分たちの利権や政局とは「関係がない」議案については、例え市民の不利益になるような議案についても、行政に対し何の指摘もせず、あるいは問題など「なかったこと」にするよう、市長のダメージを最小限に抑える議会運営をする一方
- 自分たちの「利権維持や政局に係る議案」は、本来市民の利益のために必須なものであっても、「政治が行政を捻じ曲げる」形で介入・否決する
ことで、結果的に市民が不利益を被る構造について考えました。
一部の議員や、その議員に紐づく事業者などの利益ために、本来やるべき事業の優先順位が下げられたり、政局のために重要な市の事業が否決されたりするだけで、いったいどれだけの市民の利益が踏みにじられ、何億円の損失となっているでしょうか。私見ですが、このような議会になってしまっている場合、議会の存在は市民にとって「無意味」という以上に「害悪」と考えます。
佐倉市の場合、議会維持に係る予算は年間約4億円。改選まで4年ですから、4億円×4年間で16億円が、市民の不利益のために使用されているとも考えられます。
これは論拠のない批判ではなく、具体的な事例をもとにした投げかけであることは、先の二つの論考を読んでいただければお判りいただけると思います。
他方、ここまで言うと「お前も市議会議員だろう」という指摘が当然発生しますし、そこは甘んじて享受せざるを得ません。
議会制民主主義を守る以上、地方議会の存在そのものを私は否定していません。だからこそ、「4年間で16億円」を意義のあるものにするために、問題提起をしています。
議会の質とは何か
「恥ずかしい佐倉市議会」シリーズをアゴラで公開しはじめてから、私の手元に全国からいただく連絡を確認するにつけ、現在我が国の地方議会において、「非常に多くの議会」が上記のような状態にあることがわかりました。「髙橋さんの原稿、私の市の市議会のことが書かれているようです」という、なんとも言えない気持ちにさせられる感想もいただきました。では、その状態を解消するにはどうしたらよいでしょうか?
一義的には、「議会の質をあげること」となりますが、そもそも質の高い議会とはどのような状態にあるのでしょうか?
- 執行部に対する監視能力の高い議会
- 提案力のある議会
- コスト意識が高い議会
- 市長や執行部の間に一定の牽制関係がある議会
- 市民の代表として、市民の「声を聴き」、「報告する」義務を果たす議会
- 議員一人一人が、議決において「会派拘束」されない多様性のある議会
- 議論の活発な議会
- 全議員のビジョンが明確な議会
など、人によって「議会の質」に対する考え方は千差万別です。
また諸々目指すゴールがあるとして、市民である皆さんが具体的に何をすればいいかわかりません。
そこで今回は、議会の質を向上させるために必要不可欠な要素を一つだけあげます。
議会のすべての審議を動画公開する
どの意味においても議会の質を向上させるために必要不可欠なのは、議会で行われている委員会や全員協議会など、秘密会以外のすべての会議体を動画公開することです。そうしないと、仮に選挙で「質の高い議員」が複数現れたとしても、市民による「議会の質」の検証がしづらいために、「その時限りの質の高さ」で終わってしまう可能性もあります。
「動画公開されても観ないよ」と、考えるかもしれない。確かに、地方議会の委員会審議は、通常ほとんどの国民が観ないでしょう。しかし、今回の佐倉市で発生したような「4億2500万円の一般財源の損失」議案となるとどうか?あなたの街の市長や市議会議員が、ニュースで取り上げられるレベルの汚職をした場合の議会審議ならどうか?動画公開されていなければ、政治家は「佐倉市議会の最大会派のように」やりたい放題なのです。
もちろん動画公開だけでは十分ではありません。しかし議会制民主主義である以上、議会の透明性を確保することは、どのような価値観を前提とした場合でも必須な条件です。
他方、我が国の地方議会では、圧倒的な数の議会がそうなっていない。そのため小手先の議会改革を実施しても、議会の本質は一向に変化がない場合がほとんどです。
次回論考では、「議会のすべての審議を動画公開」させるために、市民国民が現実的に取りうる行動について述べます。
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