スポーツ庁の有識者会議が4月26日、学校の部活動改革案(主に休日の部活動)をまとめて公表しましたが、記事を読む限りにおいて、学校現場の部活顧問の一人として、とても納得・満足できるような内容ではありません。
学校現場(特に教師)からは、これまで不安視する多くの声が上がったにもかかわらず、前回2020年9月に公表された部活動改革案の内容と、さほど変わっていないようです。
当時筆者は、この文科省”部活動指導軽減案”の問題点を指摘する投稿をしています。
部活指導が教員の超過勤務の要因となっているのは事実ですが、部活動に関しては、「教員の働き方改革」を考えるよりまず先に、学校教育における部活動の意義・役割とその現状をしっかり検証する必要があるはずです。
そして検証結果を踏まえ、学校教育における部活動の意義・貢献は、他の教育活動で肩代わりできるものなのか(部活動を外した場合一体どのような影響があるのか)、さらに学校外の人間や組織でも肩代わりできるものなのか、を考えていくのが筋だと思うのです。
この検証結果によって、次のような分類ができるはずです。
(ア)部活動が学校教育・子供の心身の成長にたいして貢献していない場合(プロアスリート養成や勝利至上主義に陥っているなど)
(イ)部活動が相当程度学校教育・子供の成長に貢献している場合
① 部活動による貢献・役割は、学校が担うのが最も効果的である場合
② 部活動による貢献・役割は、学校以外で肩代わりできる場合
すると、以下のような判断が可能になります。
(ア)のように、部活動が学校教育・子供の成長に役立っていなければ、部活動自体を廃止すればよく、休日どころか平日放課後の部活動もなくすことになります。
(イ)の①については、さらに部活動が現在の形態でよいのか、部活動に代わる形態が考えられるのか、学校教育・子供の成長の観点から考えます。
(イ)の②については、部活動を学校教育から外し、地域・外部団体・家庭などが肩代わりすることになりますから、平日は学校が部活動を行い、休日だけ地域が行うのは明らかに矛盾します。
このように、(ア)と(イ)②のケースは、休日だけ部活動を地域へ移行する必要も意義もありません。もし部活動がこのケースに該当するなら、有識者会議の提案は全く無意味になります。
(イ)①のケースで、初めて休日の部活指導の問題が生じますが、仮に学校教育の中で部活動に代わる効果的な形態(クラブ活動や体験・探究活動など)があるなら、やはり休日に学校以外の人間が、部活動形態で行う必要はなくなります。「現在の部活動の形態を概ね踏襲すべきだ!」となってはじめて、休日の部活指導について検討する必要が生じるはずですが、はたして有識者会議の方々は、そのような視点で丁寧な議論を重ねられたのでしょうか?
さらに、部活動の形態を概ね踏襲する場合であっても、休日だけ部活動を地域へ移行しても、平日放課後の部活指導がなくならなければ、教員の勤務日の時間外労働(平日残業)が減るわけではありません。つまり、給特法(給与に4%上乗せするかわりに残業手当を支給しない)を廃止しない限り、教員の超過勤務問題が改善されることはないのです。
そのうえ「休日の部活動の地域移行」自体、教員と外部指導員との連携問題、ケガ等への補償問題、公式試合の引率等や大会の主催・運営の問題、外部指導者の質(体罰等のリスク)の問題、保護者の金銭負担の問題など、様々な問題が生じますから、リスク・マイナス面の方が大きいと言えます。
休日だけでこれほど多くの問題が危惧されるのに、有識者会議では「将来的に平日の部活動も地域移行すればよい!」という意見がありますが、今や部活動が、生徒の進路(スポーツ推薦等)、学校の知名度アップ、加熱する学校対抗の全国大会に強く関わっているという現状認識が明らかに足りません。
そもそも「平日の部活動の地域移行」は、学校教育において部活動の意義・必要性がないと言っているのと等しいことに気づかないのでしょうか? 休日から手をつけるのは順序が逆であり、最初にアやイ➁の考え方に立たなければ矛盾するのです。
有識者会議メンバーの方々は、はたして学校現場に足を運び、生徒や教員の生の声をしっかり聴いているのでしょうか? 子供の心身の健やかな成長を願い、教育的な視点に立って部活動を捉えているとは到底思えないのです。
仮に部活動を、教員働き方改革(教員の負担軽減)の観点からしか見ていなかったとしても、まず「給特法の廃止」「職務・校務における部活指導の明確な位置づけ」を検討するのが先であり、これをないがしろにして教員を平日働かせ放題にしたまま、休日の部活動を地域に移行したところで、根本的な教員の勤務状況は改善されません。
繰り返しになりますが、文科省・有識者会議には、ぜひ「学校教育における部活動の意義・役割とその現状」を、しっかり検証することから始めてほしいと思います。