記事「誰一人取り残さないデジタル・ガバメントへの一歩目」で説明したように、政府は前向きに動き出している。『デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン』が改定され、2022年4月20日に公表された。「ユーザビリティ及びアクセシビリティに関する事項」では、ユニバーサルデザインでデジタル・ガバメントを構築していくとの考えが表明された。これが前向きな第一歩。
二歩目は調達の具体的な方法である。標準ガイドラインには次のように書かれている。
整備する情報システムの内容に応じ、総務省が公開している情報アクセシビリティ自己評価様式(通称:日本版VPAT)の書式に基づき、アクセシビリティへの対応状況(あるいは対応予定)を記載するように応札者に求めることで、可能な限り、障害の種類・程度を踏まえた対応状況を確認する
情報システムの入札を実施する際には、応札者がアクセシビリティの対応状況、あるいは対応予定を説明する。それを利用して、公共機関は落札者を決定するというわけだ。
アクセシビリティに関する知識と経験は、当然ながら、公共機関よりも応札者のほうが詳しい。「わが社の製品はこんな特長がある」と、応札者が知識と経験をアピールする機会が生まれたわけだ。
なぜ、「日本版VPAT」というのだろう。
米国には、連邦政府および連邦資金を受領した組織はアクセシビリティに対応した情報通信機器・サービス(以下、製品)を購入しなければならないという、リハビリテーション法に基づく義務がある。そこで、連邦政府等が調達する際には、企業が作成し自主的に公表する情報を参考にするというルールが作られた。情報公開する際の共通書式がVPAT(Voluntary Product Accessibility Template)である。
企業がアピールする情報を公共機関は利用して調達する。標準ガイドラインは米国にならった。
日本版VPATについて総務省も説明している。企業はJIS規格等に基づき製品を自己評価し、結果を整理して紙一枚の共通書式に記載する。共通書式には「機能性能基準」と「プライバシー」、「ドキュメントとサポートサービス」に関する情報が掲載される。「機能性能基準」は視力なしでの使用、色知覚なしでの使用、聴力なしでの使用、限られた器用さ又は力での使用等に分類されている。共通書式を見れば、個々の機能に製品がどう対応しているか読み取れる。
先にJIS規格等に基づき製品を自己評価すると書いたが、米国の技術基準に沿って評価しても、欧州アクセシビリティ法の技術基準に沿って評価しても構わない。日本版VPATが掲げる「機能性能基準」は欧米の「機能性能基準」と整合しているので、一度自己評価すれば、日米欧での情報公開に使用できるようになっている。
米国ではVPATに基づく情報公開は企業が当然果たすべき社会的義務と認識されている。GAFAからスタートアップ企業まで、同一書式でアクセシビリティ対応が公開されている。次に市場に参入する企業も倣う。こうして、アクセシビリティに対応した製品の市場が拡大していく。
標準ガイドラインで日本版VPATの利用が打ち出されたので、遅ればせながら、わが国も同じ方向に動き出す。これは、評価すべき二歩目である。