政府は、自衛隊が運用するミサイルや弾薬の取得を加速し、備蓄を拡充する方向で検討に入った。
戦闘継続能力の向上は不可欠だと判断。岸田文雄首相が5月の日米首脳会談で表明した防衛費の「相当な増額」方針に基づき、年末に策定する中期防衛力整備計画への反映や、2023年度予算案での関連経費増額を調整する。政府関係者が4日、明らかにした。
昔から自衛隊は弾薬備蓄には無関心でした。本来予算は戦闘機や護衛艦、戦車などのいわゆる正面装備だけではなく、それらを運用する訓練や整備、さらにこれらを支援する、レーダーサイトや、滑走路、港などの基地機能、弾薬の備蓄、更には予備役の確保など多岐にわたる分野でカネが必要です。
ところが自衛隊はそこいらのやっすい軍オタと同じレベルで、新たしいおもちゃがあればそれだけで満足してきました。
空自は米空軍様と同じF-15を入れてご満悦でしたが、ミサイルや機関砲の砲弾の備蓄はお寒い限りです。訓練の所要の充足だけで戦時備蓄は事実上ありません。そして戦闘機用のバンカーもなく、基地の防空システムもお粗末です。整備費用もお寒い限りです。
ただでさえ高価だったF-15をライセンス国産で3倍の値段で調達するのですから、金が足りなくなるのは当たり前です。安サラリーマンがフェラーリを3倍の値段でローン組んで買ったようなものです。家賃や食費が満足に出せるわけがありません。
であればF-15は輸入する、あるいは調達機数を三分の一に減らすとかの方法もありましたが、新たしい火の出るおもちゃを目一杯買ってしまいました。
弾薬にしても小銃弾からミサイルにしても、他国の数倍から一桁高い調達単価です。これまた数が揃うはずがありません。
海原治氏が「私の国防白書」(昭和50年発行)で述べていますが、自衛隊の認識は素人並です。そしてそれは今も大して変わっていません。
戦略備蓄という概念はありません。そして備蓄にしても、輸送途中で撃破されたして部隊に配布されるまえに損耗されることを想定していません。
英軍では訓練用の小銃弾を以前はIMI、その後は南アのPMPから調達していました。それは国産より格段にやすかったからです。フラン軍でも砲兵では実戦用は国産信管で、訓練用には安い米国製を使っていたそうです。そのような工夫を自衛隊はやりません。「戦時?何それ美味しいの?」ぐらいの意識です。
しかもわざわざ他国から融通できないようにしています。自衛隊の7.62ミリ弾は弱装弾であり、NATO弾とは射程距離や弾道特性も違います。このため使用するには、銃の側の調整と隊員の再訓練が必要ですが、有事にできますか?
40ミリ自動擲弾銃の弾薬はわざわざNATOと互換性のないもの作っています。つまり戦時には外国から輸入できない。これは外国製にコストや性能、信頼性で敵わないのでわざわざ仕様をかえて、被関税障壁としたのでしょう。あまりに姑息ですし、軍事を舐めています。因みにAAV7のMk19用の40ミリ弾はラインメタル製を使用しています。
そもそも自衛隊には正面装備を導入し、全数を戦力化するという「計画」がありません。特に陸自はそうです。戦車も装甲車も、小銃も、無計画に細々と調達して30年は掛けています。
仮に30年を装備の寿命とするならば他国では5〜10年で調達を完了して、戦力化します。そうすれば20~25年はその装備を戦力として運用できます。採用後10年ぐらいでたいてい陳腐化しますから、途中で近代化します。20年も経てば更の陳腐化して、後継装備が導入されるか計画されますが、それまで一線で戦えるようにさらなる近代化をします。
対して自衛隊では30年かかるので、予定した定数が揃うことがありません。つまりは戦争を想定しておらず、装備の調達自体が目的化しています。
装備を買うことが目的ですから、弾薬備蓄なんて考えていません。演習で使える分があればいい、現実そうなっています。
つまり政治の役割は自衛隊がちゃんと戦争前提のメンタリティに叩き直すことです。そのうえで数倍から一桁高い装備、弾薬の調達コストの低減を行うべきです。それなしにカネさえばらまけば弾薬備蓄ができるとおもっているならば軍事に口を出す権利はありません。
サバイバルゲームではBB弾がなければ戦えません。ですからゲーマーはきちんとその日使う弾を余裕をもって用意するし、足りなくなれば融通しあいます。つまり自衛隊はサバイバルゲーマー以下ということになります。
【本日の市ヶ谷の噂】
我が陸上自衛隊が誇る、最新型戦車10式は車内が90式戦車に比べて著しく狭く器具を無理やり詰め込んでいるため、平均身長の車長、砲手は状態を捻ってオカマ座りをしない操作ができない、との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。