米中間選挙の前哨戦:「2000-mules」と「J6公聴会」(前編)

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米国は目下、民主・共和両党とその支持者の主張が一層対立を深めている。対立の種は、国家独立の起源、人種問題やCRT、気候変動、人工中絶やジェンダー、コロナワクチンやマスクなど、挙げればきりがない。政権が変わればこれらに纏わる政策が180度変わるのだからそれも道理か。

だからこそ11月8日に投票日を迎える中間選挙の持つ意味は極めて大きい。それは単に上院の34議席(1/3)と下院の全435議席の改選の行方に留まらず、2年後の大統領選挙の成り行き、すなわちどちらの政党が政権を握るのかをも大きく左右からだ。

しかし、両党で各々進行中の候補者選び(州毎の予備選)の話題は、選出される共和党候補が親トランプかそうでないかに専ら集中し、政治状況が良くない民主党のそれは影が薄い。共和党の予備選では、昨年2月のトランプ2度目の弾劾裁判で賛成票を投じた共和党議員の帰趨が注目の的だ。

トランプは在任中に2度弾劾裁判を受けた大統領として、またその2度とも無罪となった大統領として歴史に名を残した。思い起こせば、20年2月の1度目の弾劾裁判の嫌疑は、トランプが前年7月にウクライナのゼレンスキー大統領にかけたとされる電話だった。

トランプはゼレンスキーに対し、軍事援助と引き換えにバイデン前副大統領の息子ハンターに関する捜査の公表を不当に要求、併せて16年の米大統領選挙にロシアが介入したとされる疑惑を巡り、ロシア側が「介入したのはウクライナだ」としていることも調査するよう求めたといわれる。

あれから2年半、今や米国の軍事支援はロシアの侵略に遭うウクライナ軍を支え、ハンター・バイデンのラップトップは本物と認定され、16年の大統領選へのロシアの介入も、ダーラム特別検察官によって「ヒラリーゲート事件」として人口に膾炙する様相で、トランプは面目を立てつつある。

昨年2月13日に上院で無罪となった2度目の弾劾が、1月6日の暴徒による議事堂襲撃をトランプが「煽動した」との嫌疑だったのは記憶に新しい。7人の共和党議員を含む57人が有罪票を投じたが、必要な67票(2/3)には至らなかった。7人の内の1人は後述するリズ・チェイニーだ。

そのひと月前の1月13日、下院は賛成232票、反対197票でトランプを有罪とした。共和党から10人が造反した。そのうちの1人トム・ライス下院議員がこの14日に行われたサウスカロライナ州(SC)の共和党の予備選で、トランプが支持した州議員ラッセル・フライに敗れた。

一方、別のSCの選挙区では、トランプを批判したナンシー・メイス下院議員が、トランプが支持した元州議員の候補に勝利した。メイスが弾劾に反対票を投じていたことや後に批判を撤回したこと、共和党のホープの一人ニッキー・ヘイリー前SC州知事が支持していたことなどが理由という。

他の州でもトランプが支持する候補が苦戦している選挙区が散見される。メイスの事態を含め、このことは共和党内が必ずしもトランプの意向100%ではなく、党内の有力者の支持や選挙民(共和党員)の考えも入る余地のあることを窺わせる。

とはいえ、依然としてトランプは共和党での影響力を維持しており、2年後には十中八九、大統領候補に選ばれるだろう。今は悔しいだろうトランプだが、この現象は共和党にとって決してマイナスにはならないではあるまいか。中間選挙での、党の候補者の当選に注力すべきだ。

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そこで「2000-mules」と「J6公聴会」のこと。「2000-mules」は00年11月の大統領選挙の不正が如何にして行われたかをドキュメンタリー風に描いた映画で、保守派のドキュメンタリー作家ディネシュ・ドスーザが制作した。「mule」とは麻薬などの「運び屋」のこと。

選挙監視団体「True The Vote」の創設者キャサリン・エンゲルブレヒトや選挙情報分析官も出演するその内容は、スマホのGPS位置情報を使って激戦州で複数の選挙用投票箱を特定し、家族の投票でない限り違法となる、複数の投票用紙を投函箱に入れる人物の証拠映像なども紹介するもの。

映画の最後に表示されるQRコードをスキャンすると「True The Vote」のサイトに誘導され、分析に使用した全てのGPSデータと生の映像を、6月中に公開する予定とされ、製作者はその計画を「リップコード」と称している。

トランプは「J6公聴会」に先立って6月2日、フロリダの別荘「マー・ア・ラゴ」に1000人を招待し、「2000-mules」の上映会を催した。

そして「J6公聴会」。正式には「2021年1月6日の国会議事堂暴動を調査する下院特別委員会公聴会」という。この6月9日、副委員長のリズ・チェイニー(委員長は民主党のベニー・トンプソン下院議員)は、委員会主催の公聴会を同日以降、7回にわたって開催すると述べた。

委員会の会則では、13人のメンバーのうち「5人は少数民族指導者と協議して任命する」となっているが、共和党からは弾劾に賛成票を投じたチェイニーとアダム・キンジンガーしか任命に応じなかった。声明でそこを突いたトランプは、憲法違反の「Unselect Committee」だと揶揄する。

チェイニーに拠れば、「今夜(1回目の公聴会)は、委員会が学んだことを説明し、今月の公聴会でご覧頂く最初の調査結果をハイライト」し、「2回目の公聴会では、トランプと彼のアドバイザーが、実際には選挙に負けたことを知っていたことをご覧頂く」そうだ。

「3回目の公聴会では、トランプ大統領が不正に米国司法長官を交代させ、米国司法省が彼の偽の盗用選挙の主張を広めるように計画したことをご覧にいれ」、「4回目の公聴会では、トランプ大統領がペンス副大統領に圧力をかけ、1月6日の選挙人票の集計を拒否したことに焦点を当てる予定」と。

「5回目の公聴会では、トランプ大統領が州議会議員や選挙管理者に圧力をかけ、選挙結果を変更させた証拠をご覧頂き」、「6月の最後の2回の公聴会では、トランプ大統領が暴力的な暴徒を呼び寄せ、違法に指示し、米国連邦議会議事堂に行進させたことをお聞き」願うそうだ。

(後編に続く)