「マイクに失望した」:トランプ、ペンスに決別

米国の保守系ニュースサイト「ワシントン・イグザミナー」(以下、「WE」)は16日、トランプ前大統領の電話取材の中身を報じた。その中でトランプは「マイクに失望した」と改めて述べ、24年の大統領選で共和党の候補指名を勝ち取った場合、ペンスを伴走者にすることを事実上否定した。

6月に76歳になるトランプは24年の大統領選への出馬を未だ表明しておらず、目下それが、ペンス(1959年6月生まれ)、デサンティス(1978年9月生まれ)フロリダ州知事、ポンペオ(1963年12月生まれ)前国務長官、ヘイリー(1972年1月生まれ)前国連大使、クルーズ(1970年12月生まれ)上院議員ら共和党有力候補の意思表示に掣肘を加えている。(参考拙稿「24年もヒラリー?ポストバイデンの米大統領選を占う(後編)」)

「WE」の取材でもトランプは、依然その意思表示をしていないが、仮に共和党の指名を得た場合、ペンスを再び副大統領に起用することについて、「国民が受け入れるとは思えない」と述べた。

トランプは取材の終盤、「私はまだマイクが好きだ」とも述べたものの、「WE」は、「バランスよく見ると、トランプ氏のコメントは冷たく、批判的であった。前大統領は2020年の選挙に対する不満を取り下げるつもりはないようだ」と、その印象を書いている。

「2020年の選挙の選挙に対する不満」とは、トランプが不正選挙を主張し、21年1月6日の両院合同会議での選挙人投票で上院議長を務めたペンスが、バイデン候補の選挙人団の勝利を覆すことを望んだものの、憲法がその様な権限を与えていないとして、ペンスがそれを拒否した出来事だ。

筆者は昨年7月の拙稿「トランプに望みたいペンスとの和解」で、「トランプの胸中も理解できる。が、大統領選は12月に連邦最高裁がテキサス州の訴えを門前払いした時点で決していた」とし、「その判事の多くは、選挙間際に指名したバレット判事を含めて、トランプが任命者だ」と書いた。

そして「恨むならペンスよりも、むしろこれらの連邦最高裁判事ではなかろうか」と続け、「二人の離間は国内外の敵を利するだけだ。ペンスの人となりを理解し、寛容に接してこそトランプも見直される」とも。トランプも今回の取材で、ペンスを「本当に素晴らしい人物」とも述べている。

だが、1月6日のペンスの行動について、トランプは、副大統領が様々な州の選挙人票を破棄できたことの証拠として、選挙人団の結果の議会認証を規定する法律である選挙人勘定法の改革について、議会で超党派の協議を行っていることを指摘する。

このことを、彼は以下の様に表現している。

マイクは、どんなに不正な票でもOld Crowに送らなければならない、人間ベルトコンベアーになろうと思っていた。・・が、それは間違いだったと判った。なぜなら、ご存知の通り彼らはマイクができないと言ったことを、副大統領ができないようにしようと躍起になっている。・・明らかに、彼らは嘘をついていたか、誤った説明をしていたか、あるいは知らなかったかのどれかだ。

因みに「Old Crow」とはケンタッキー発祥の廉価なバーボンのこと。同州選出の共和党上院院内総務で長老のミッチ・マコーネルに、トランプはこのニックネームを付けて呼んでいる。

この発言の後、トランプは「私はマイクに失望した」と付け加え、「マイクと私は、最後に起こった非常に重要な要素を除けば、素晴らしい関係だった。私たちは非常に良い関係だった」としつつ、「長い間、彼とは話していない」と述べる。が、取材の終盤で「私はまだマイクが好きだ」と言う辺りは、ペンスへの敬意も窺わせる。

一方のペンスも、この問題を吹っ切ろうとしている様だ。「WE」は彼が最近、保守系弁護士の集まりで、大統領選の結果を破棄する憲法上の権限が副大統領にあるとのトランプの主張を全くの「間違い」と述べたことを挙げ、トランプからの「独立を確立するための努力を加速させている」と書く。

さらにペンスが、この3月に行われた共和党全国委員会の寄付者集会で、党の資金提供者に対し「この党にプーチンの弁解者(apologist)の居場所はない」と述べ、さらに「昨日の戦いや過去を蒸し返すことでは勝てない」と付け加えたことも「WE」は報じている。

「プーチンの弁解者」とは、言うまでもなく、2月24日のロシアによるウクライナ全面侵攻に先立つ22日にマー・ア・ラゴで行われた「C&Bショー」のインタビューで、「プーチンは天才」と発言したトランプのことだ。懸念した通りこの印象操作報道は、相変わらず独り歩きする。

つまり、トランプは22日の時点では、プーチンがウクライナに全面侵攻するなど予想だにしておらず、ロシア軍の終結を「駆け引き」の道具と思っていたこと、全面侵攻に「驚いた」こと、プーチンが「とても変わってしまった」ことなどを、「WE」に率直に語っている

その一方、トランプは、共和党の焦点を22年の中間選挙や24年の大統領選に移すことは政治的な間違いであると主張し、20年の選挙で起こったことを解決することが共和党の予備選挙有権者にとって最も重要であると述べた。この発言は、ペンスが「昨日の戦いや過去を蒸し返すことでは勝てない」としていることとの深い対立を浮き彫りにする。

この辺り「WE」は、トランプは政治家としてのキャリアを通じて、しばしば側近と確執を起こし、側近を破門するようにさえ見えるが、後になって両手を広げて迎え入れることもあり、ペンスにもその可能性が常にある、などと書く。が、筆者はその可能性はほとんどなかろうと思う。

6月に63歳になるペンスは、01年1月から6期12年間イリノイ選出の下院議員を務めた後、同州知事1期を経て、17年1月にトランプ政権の副大統領に就任した。その4年間、実業家から大統領になった政治経験のないトランプを支え、「2人は緊密で生産的な仕事上の関係を築いた」(「WE」)。

トランプはペンスに「政治的に活動し、政権のアジェンダを形成するための異例の自治権を与えた。その見返りとして、ペンスは少なくとも公の場では、トランプにほぼ疑いようのない忠誠心を与えた」(「WE」)。中でも筆者は、18年と19年の共産中国非難演説は、ペンスの真骨頂と思う。

昨年7月の前掲拙稿でも詳述したが、ペンスの安定感のある保守主義者としての言動や立ち居振る舞いは、筆者には、破天荒(「誰もなしえなかったことをする」という本来の意)なトランプとの「割れ鍋に綴じ蓋」とでもいうべき絶妙な組み合わせを思われた。

共和党の有力候補者の年齢を見るにつけ、24年にトランプとペンスのコンビが1期やり、ペンスが後を継いだ後、ポンペオや70年代以降生まれの若手にバトンタッチされるなら、古き良きアメリカが取り戻せるのに、などと考える筆者には、この両雄の決別が残念でならない。