少し遅れたが報告する。中欧のチェコは7月1日、フランスから欧州連合(EU)の議長国を引き継き、下半期議長国(7月~12月)の座に就任した。欧州がロシア軍のウクライナ侵攻、それに関連し、エネルギー問題・物価高騰、地球温暖化対策など難問に直面している時だけに、チェコのかじ取りが注目される。
政権交代の起きたチェコ
チェコでは昨年10月8、9日の両日、議会選挙(下院、定数200)が実施され、アンドレイ・バビシュ首相が率いるポピュリスト運動「ANO2011」が反バビシェで結束したリベラル・保守政党の野党連合(Spolu)と左翼のリベラルの政党「海賊党」と「無所属および首長連合」(STAN)の選挙同盟に僅差ながら敗北した。
その結果、野党連合のペトル・フィアラ首相を中心とした連立政権が昨年12月17日、発足したばかりだ。EU懐疑派だったバビシュ前政権とは異なり、フィアラ新政権は親EU路線を推進していくものと予想されている(Spoluと「海賊・STAN」の2選挙同盟は政治路線が全く異なる。選挙戦ではバビシュ降ろしで結束できたが、連立政権の政策運営で相違が浮き彫りになる可能性は排除できない)。
新政権にとってEU議長国就任はそのプレゼンスを欧州全土に知らしめるチャンスだ。それに先立ち、新政権は6月15日、議長国として5点から成る政策課題の優先事項を発表している。第1の課題は4カ月が過ぎ、長期化の様相を深めているウクライナ戦争への対応だ。
具体的には、ウクライナへの武器供給、難民収容、経済支援を含む人道支援だ。ウクライナのゼレンスキー大統領が、「ロシアとの戦争は単なるロシア・ウクライナ戦争ではなく、独裁国家ロシアと欧州の民主国家との戦いだ」と強調しているように、ウクライナ戦争はEUの存続を賭けた戦争ともなってきている。フィアラ首相は、「ウクライナの復興とEU加盟支援は大きな課題だ」と述べている。
第2はウクライナ戦争に関連して先鋭化してきたエネルギーの安全保障問題だ。ロシア産の石炭、石油、天然ガスに依存してきた欧州諸国にとっては、ロシアが地下資源を武器として脅迫してきただけに、EU加盟国にとって安全なエネルギー確保は急務となってきている。特に、再生可能エネルギーを掲げ、脱原発、脱石炭を掲げるEUの経済大国ドイツにとって大きな挑戦だ。
EUはエネルギー安全保障については、「欧州グリーン・ディール」を推進する政策パッケージ「Fitfor55」を掲げ、温室効果ガス削減目標の達成に向けて、エネルギーのロシア産化石燃料依存から脱出、水素エネルギーへの転換を進めることを政策課題としている。
そのほか、欧州の防衛力、軍事力の向上、サイバー・セキュリテイの強化問題だ。EU加盟国は同時に北大西洋条約機構(NATO)加盟国が大多数であることもあって、EUとNATOの連携強化が問われるわけだ。その意味で、マドリードで開催されたNATO首脳会談は米国を加え、NATOの拡大強化が明らかになったばかりだ。
親台湾政策が注目される
EU議長国となったチェコの外交で注目される点は、前政権下で進められてきた親台湾政策だ。チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長が2020年8月末から9月5日にかけ台湾を訪問し、中国から激しい批判を受け、経済制裁まで受けた。台湾から招請されたヤロスラフ・クベラ前上院議長が不審な急死を遂げ、事件の背景についてメディアでも大きく報道されたことはまだ記憶に新しい(「中欧チェコの毅然とした対中政策」2020年8月10日参考)。
「Taiwan Today」(TT)によると、中華民国外交部(台湾)は1月、「台湾とチェコの関係は常に緊密で、友好的。フィアラ政権とは自由、民主主義、基本的人権の尊重などの価値観を共有し、理念を同じくするパートナーシップを構築している。
2021年に行われたチェコ議会下院選挙で勝利した野党連合による新政権は、台湾との関係を強化する選挙公約を示した。政策方針でも台湾との関係強化を打ち出したことは、両国の関係がさらに発展することを重要視しているものだ」と述べ、両国間の関係深化を期待する声明を公表している。
フィアラ新政権下で新台湾政策が継続されていくならば、中国から経済制裁を含む圧力がさらに強まってくることが予想される。中国側はチェコの親台湾路線の修正を図るためにさまざまな手段を行使するだろう。
ただ、ロシアのウクライナ侵攻に直面した今日、ロシアと連携する中国共産党政権に対する警戒心がEU、NATO内で広がってきている。中国共産党政権がプーチン大統領のウクライナ侵攻に倣い、台湾海峡に軍を進出させるのではないか、といった懸念だ。チェコはEU議長国として対ロシア、対中国政策で毅然とした対応が期待される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。