防衛費縦割りの弊害

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日経が防衛費の縦割り、不効率を指摘する良記事を書いております。

世界屈指の「富岳」生かせず 安保運用「縦割り」が壁 防衛費の研究①

(防衛費を)2%に増やすなら新たに年6兆円規模がいる。日本の年間の公共事業費に匹敵する額で、最終的には国民の負担になる。バラマキと指弾されないよう効果的な防衛予算にする必要がある。

来日したデニス・ブレア元米国家情報長官(NID)が自民党議員に「日本のサイバー防衛の実力はマイナーリーグだ」と伝えたのだ。

サイバー防衛は情報を入手・解析するために膨大な計算が必要になる。日本には計算性能で世界最高レベルのスーパーコンピューター「富岳」がある。21年まで速度で首位だった。ところが防衛省がこれらをサイバー防衛に使った実績はほぼない。

政府は文部科学省を通じて富岳に1100億円の開発費と年130億円ほどの運営費を投じてきた。使途は主に学術や産業の分野に限っている。潜在能力があるものの、活用できていない状況は海外から「宝の持ち腐れ」にみえる。

縦割り行政の典型例です。もっともそれ以上に国家的なサイバー防衛をだれがやるか、決まっていない無責任体質があります。

防衛省がサイバーで守るのは自衛隊だけです。ですが敵が叩くの主たる対象は自衛隊ではなく金融システム、空港・港湾、発電所などのインフラです。

そして以前も指摘しましたが、海底ケーブルの揚陸処、インターネットのIXPが破壊されればネットは止まります。これを自衛隊は守れない。

ミサイルや爆撃で攻撃されれば、対抗手段を取るが、目に見えないサーバー戦では自衛隊は国民も国家も守らず、自分たちしか守らない、というわけです。これは異常です。

そういう組織がスパコン使ったからといって成果が上がるか疑問です。

米欧は国防費に含む領域が広い。米国の国防費は原子力に年4兆円を投じ、建設やインテリジェンスにも拠出する。国家や国民の安全が目的なら様々な項目に支出し、複数の役所が関与する。

日本の防衛費は「防衛省の予算」を指す。北大西洋条約機構(NATO)諸国だったら防衛費と位置づける海上保安庁の予算も防衛費には含まない。安保上重要な空港や港湾は公共事業としてほとんど国土交通省の所管だ。

これが国内基準ではGDP比1%が、NATO基準だと1.2~1.3%になる所以です。

インテリジェンスの経費は防衛省の情報本部については防衛費に入るものの、警察庁はもちろん内閣情報調査室や公安調査庁は対象にならない。

このあたりに関しては疑問です。警察は警察独自のインテリジェンスがあってしかるべきだし、それを防衛費から出すのは筋違いです。

むしろ問題はCIAのような組織がないこと。それと在外公館の防衛駐在官が、外務省に出向して「外交官」身分であって、外務省のし予算で活動すること。それゆえに、他人事であり、駐在官が情報収集をする担当者だという意識が防衛省には低いわけです。防衛駐在官の経費は本来全部防衛省で持つべきで、自衛官の身分のまま出すべきです。

政府が備蓄する4500万キロリットルの石油は有事に備えた防護施設が乏しく、民間業者が守る。これは警備を含めた管理の経費を経済産業省の年700億円規模の予算から手当てしているためだ。

これは原発なども同じです。ですが全ての重要インフラを自衛隊が守れるわけではないのも事実です。更に申せば防衛省は年間に使う燃料しか手当せず、戦時の防衛省用の備蓄を持っていない。しかもある程度の備蓄を切らさないように業者に押し付けてきました。これが癒着となって以前問題になったことがありますが、抜本的な解決はなされていません。

研究開発費はこれらの縦割りの象徴ともいえる。防衛費に占める研究開発の割合はたった3%。米国の国防費では5倍の15%もある。

日本政府は研究開発に全体で年4兆円超の予算を充てる。49%は文科省、15%が経産省、10%が国交省だ。防衛省は4%で全省庁で6番目にあたる。安保の優先度は低い。

防衛の研究開発が少ないのは事実ですが、使い方にも問題があります。まず基礎研究を殆どしていない。装備庁の研究スタッフはメーカーでのものづくりの経験がなく、技術実証と装備化の区別も曖昧です。

また本来MRJ(スペースジェット)の開発でも本来防衛省を含めた、国家プロジェクトです。民間機部門が大きくなれば、メーカーとしても技術が広がり、裾野も大きくなります。それは防衛省、自衛隊にもメリットがあります。そのような意図が全く感じられませんでした。

日本学術会議に代表される学界側の問題もある。

学術会議は発足間もない1950年、戦争目的の科学研究を「絶対に行わない」との声明を発し、2017年にも継承するとの方針を公表した。所管する文科省が巨額予算を「聖域化」し、歴代政権もメスを入れられなかった側面がある。

これにメスを入れたのは菅元総理の唯一最大の功績です。国防を否定する学術会議は一種のカルトであり、解散させるべきです。

米国防予算、省庁横断で編成 渡部恒雄氏 防衛費の研究 インタビュー

米国の国防予算には国防総省やエネルギー省など複数省庁の予算を含む。「役所=1つの予算」ではない。これができるのは名実ともに議会が予算を決定するからだ。

米議会には政権から独立して予算を調査する議会予算局(CBO)がある。中立の立場で様々な予測や分析を提供し、議会はこの情報を基に議論して予算を決める。

要求側の防衛省と査定側の財務省主計局の2者でほぼ完結する日本の従来の手法には限界がある。防衛費を倍近くも増やすなら、米欧を参考に省庁横断的な視点で吟味し、適切に組み換えることが必要になる。

日本にはこのような組織がありません。それに会計監査院(GAO)も日本よりスタッフも多く、権限も大きい。更に議員は多くの政策スタッフを抱えており、調査機能も備えています。秘書が単なる事務やさん、選挙やさんである日本とは大きく異なります。

またセキュリティクリアランスが安倍政権から一部導入されましたが、実質ないのも問題です。このため国会で秘密会議を開けません。防衛省は議員に他国では当然公開している情報も隠します。このような隠蔽体質も大変問題であり、文民統制が機能しているとは到底言えません。

情報の開示、各省庁間の風通しの良さが必要です。

【本日の市ヶ谷の噂】
「本日の市ヶ谷の噂」がきっかけで防衛省の衛生のでたらめさが明らかになり、自衛隊衛生をの現状を嘆くコメントがSNSやブログに氾濫。自衛隊入間病院の職員も、「希望に燃えて自衛隊入間病院の職員募集に応募したけど。だまされた。もうやめます」
事の重大さに気が付いた自衛隊衛生高官が、SNSで火消しに奔走し、職場で圧力をかけるも火に油を注いでいる、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年7月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。