現在、欧米ではPCR検査を積極的に行わなくなっていますので、新型コロナ感染率の比較は、あまり意味がありません。意味があるのは、死亡率の比較のみと考えられます。
今回はOurWorld inDataの死亡率(100万人あたりの死亡者数7日間移動平均)のグラフを見てみます。現在、日本においてコロナ死亡率が急上昇しています。なお、死亡率は通常は年間死亡率を意味しますが、このグラフの死亡率は意味が少し異なります。それを理解した上で、以下の論考を読みすすめてください。
7月中旬より日本の死亡率は急上昇して、遂にアメリカの死亡率を超えました。欧米のコロナの死亡率は、日本のそれより遥かに高いというイメージがありますので、少々意外なグラフです。
次に、1月以降のグラフで再確認してみます。第6波では、日本の死亡率はアメリカのそれより遥かに低いのに対して、第7波では、日本の死亡率が急上昇したことにより、アメリカの死亡率を超えたことが分かります。もう少し適切に表現すれば、アメリカの死亡率が横ばい又は微増のため、日本が追い越したという感じです。
マスクなどの感染対策が撤廃され、現在のアメリカはコロナ以前の日常に戻っています。一方、日本では、行動制限はありませんが、マスク・換気などの感染対策は真面目に続行されています。なぜ日本の死亡率がアメリカのそれを超えたのか、考えてみると実に不思議です。
日本の第7波と第6波の相違点は、行動制限がなくなったことと、ウイルスがBA.5に変化したことです。ただし、アメリカは元々行動制限はありませんし、ウイルスも同じBA.5です。したがって、これらは死亡率の超過の原因には成り得ません。
考えられる理由の一つは、オミクロン株の自然感染免疫を獲得した人の割合が日本とアメリカでは大きく異なるということです。
大阪大学の忽那氏の解説より引用してみます。
オミクロンの流行の最中である2022年2月に行われたアメリカ全土の調査では、アメリカ国民の57.7%が過去に新型コロナに感染した証拠となるN抗体が陽性でした。特に0~17歳の世代では7割を超えていました。 特にオミクロン株が広がって以降、急激に上昇しており、現在アメリカ国民の8割がオミクロン株に対する免疫を持っているという試算もあります。
ちなみに同じくオミクロン株による第6波のピークを超えた2022年2月に日本で行われた調査では、日本人のN抗体陽性率は4.27%と報告されており、この時点でアメリカは国民の大部分がオミクロン株に感染し、日本ではオミクロン株を主流とした第6波でも感染者数はそれほど多くは増えなかったことが分かります。
・・・中略・・・
一方、同じオミクロン株であるBA.1やBA.2に感染した人は、同じオミクロン株であるBA.5に対しては8割近い感染予防効果があり、感染リスクは約5分の1となります。
この解説において、日本人の抗N抗体陽性率は4.27%と記述されていますが、正確には既感染者割合が4.27%という意味です。この数値のソースは、感染研のレポートです。抗N抗体陽性率、抗N抗体陽性者の4割程度が未診断者であること、診断歴の有る者の2割程度において抗N抗体が陰性であることを勘案して算出した既感染者割合の推定値が4.27%ということです。なお、抗N抗体はオミクロン株だけなくデルタ株やアルファ株などでも陽性となります。
オミクロン株では、ハイブリッド免疫(自然感染免疫+ワクチン免疫)が最も発症予防効果が高いと報告されています。高齢者のハイブリッド免疫の割合が日本とアメリカでは大きく異なるため、日本では第7波で死亡者が急増したのに対して、アメリカでは横ばい又は微増にとどまっているのではないかと私は考えます。重症化予防効果が同等でも、ハイブリッド免疫の割合が低く、発症率が大きく上昇した日本では、それに伴い死亡率も上昇したという理屈です。
では、なぜ日本の既感染者割合はアメリカのそれより極端に低いのか?
ファクターXの影響がまだ存在している可能性もありますが、日本の第6波の時の感染対策がそれなりに有効であったことが主因と考えられます。アメリカでは2月頃より感染対策は撤廃されましたが、それ以前においても日本ほど真面目にマスクなどの感染対策を行わなかったと考えられます。その結果、公式発表の感染者数より遥かに多い人が感染し、抗N抗体陽性率は57.7%という高い数値になったと推測されます。
日本の第6波では、多数の死亡者がでましたが、感染対策をしっかり行ったため、あの程度の死亡者ですんだと考えることもできます。第6波の死亡率は、同時期のデンマークの死亡率の約5分の1ですので、欧米と比べますと決して高いわけではありません。見方を変えますと、第6波の死亡者の一部が第7波へ先送りされたと考えることも可能です。欧米のロックダウンにより問題が先送りにされたとする考え方と同じ理屈です。
日本の第6波の時期に、アメリカでは感染対策が不十分であったため、非常に多くの感染者が発生し、ハイブリッド免疫を有する人の割合が高くなり、その結果、第7波の時期に死亡者が比較的少なかったわけです。一方、日本では第6波の感染対策が充実していたため、問題が先送りされ、第7波で死亡者が多く発生したと考えれるわけです。
第6波での問題先送りは、日本にとっては幸運でした。何故ならば、結果的に、死亡者を第6波と第7波に分散できたからです。もし、第6波に死亡者が集中していたならば、想像を絶する医療崩壊が起きていた可能性があります。死亡率が5倍のデンマークで医療崩壊が起きなかったのは、コロナ病床を柔軟に増減できるためです。コロナ病床の柔軟な増減は、新型コロナを5類に格下げすることより解決できる問題ではありません。
今後、「行動制限なし」を続けるべきか?
原則続けるべきと私は考えます。ただし、医療逼迫の状況によっては、限定的な行動制限の要請はありだと私は思います。
大阪では、高齢者のみの行動制限が要請されました。ただし、この対策は実効性に乏しいとする反論もあります。 有効な限定的行動制限を見極めるのは簡単ではありません。
更に死亡率が上昇した場合は?
最後は、日本人の死生観の問題に帰結します。尾身氏は以前に、「重症者数、感染者数、一般医療の制限をどこまで我々が許容するか、国民的なコンセンサスが必要だ。」と発言しています。
職務放棄と非難する人もいましたが、私はこの発言は核心をついていると感じました。国民の大多数の支持を得られない感染対策は長続きしないという話なのだと思います。